「お年寄りは、社会のゆがみに意見を言うのに適していますよね。五十代の人に説教をされても反論したくなりますが、七十代以上の人なら少々無茶なことでも聞かなきゃいけない(笑)。昭和ノスタルジーと言われるかもしれませんが、孫が祖父母から何かを教わるという光景もなくなりました。それを書きたくておばあちゃんと孫娘という人物を考えたんです」
『さよならドビュッシー』や『贖罪の奏鳴曲(ソナタ)』がヒット中の中山七里さんの最新作は、静おばあちゃんの名推理が冴える連作短編集だ。
元裁判官・高遠寺静は、法律家を目指す大学生の孫娘・円と暮らしている。円は両親を交通事故で失い、祖母に引き取られたのだった。まだまだ若さが先走る孫娘を厳しくしつけながらも、静は温かく見守っている。一方好奇心旺盛な円は知り合いの若手刑事・葛城公彦の担当する事件に首を突っ込む。円は何があったか逐一報告するが、静おばあちゃんは家から一歩も出ない“安楽椅子探偵”として事件を解決に導いてしまうのだった。
「編集者と打ち合わせをしているときに、古典的な安楽椅子探偵ミス・マープルが面白いという話になり、それなら現代に彼女を復活させてやろうと。各短編もチェスタトンの『ブラウン神父』シリーズのタイトルをもじってつけたりと、作品全体を懐古趣味にしました……と言いたいところですが、それだけでは面白くないので、最後の最後にアッと驚く仕掛けを用意してあります(笑)。ネタバレになるので多くは語れませんが、実は連作短編という形式自体もトリックの一つ。最後の十ページでガラリと印象が変わる作品に仕上げることができました。それまで読者が思い描いていた物語が反転すると思いますよ」
中山さんの小説は、最後の一行まで飽きさせないドンデン返しも大きな魅力の一つだ。「最初は読者サービスのつもりが、今では必ず期待されてしまって(笑)」と中山さんは語るが、そこには“読者を必ず楽しませる”という作家としての決意が見える。
「単行本の値段は高いじゃないですか。千五百円の本だったら、その値段以上には必ず楽しんでほしい。できれば古本屋に売らないで、長く家の本棚に置いてもらえるとさらに嬉しいです。本棚のスペースって心のスペースでもあると僕は思っているんです。
自分自身が面白い本を読んで人生が変わってしまったので、その恩返しがしたいという気持ちが一番強い。一度だけでなく、再読しても楽しめて、しかも読んだ人の心の一部になれるような小説を書きたいと思っています」
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