なおカーソン個人にとっても──ということは結局、それを描く作者カーリイにとってもということだが──『イン・ザ・ブラッド』の事件はモニュメンタルな事件であろう。前作『ブラッド・ブラザー』において、カーソンと、彼を長く呪縛していた実兄ジェレミーとの関係に、一応の決着がつく。『イン・ザ・ブラッド』は、シリーズにおいてジェレミーが真の意味でいない状況での初めての事件（「登場しない」だけならば『毒蛇の園』があった）であり、カーソンは、疲れてはいるけれど、前回までと比べてややリラックスし穏やかになっているようだ──などと思って読んでいると大変なことになるのだが、これまたここでは言わぬが華である。

 なお注目のカーソンの恋人であるが、今回は恋愛要素が希薄である。代わりに、彼とハリーが助けた赤ん坊ノエルがいる。小さな彼女との交流は、カーソンとハリーに安らぎと、彼女を守り、助けねばという強い意志を与える。この種の感情をカーソンが抱くのは、今回が初めてである。さらに、近所の犬に絡んだ、心温まるエピソードも見逃せない。以前のカーソンからは想像しづらかった感情や言動を、彼はたびたび見せるようになっている。あり得なかったことが多々起こるのだ。ジェレミー抜きであることと併せて、本書で彼は、新生カーソンとなったのである。

 本書でさらなる飛躍を遂げたジャック・カーリイとカーソン・ライダーだが、彼らの旅路は、もちろんまだまだ続いている。解雇された探偵とカーソンが渋々コンビを組んで子供の連続誘拐事件を調べる、初めてカーソンが語り手を務めない小説Little Girls Lost、休暇中のカーソンの前にジェレミーが再び現れるBuried Alive、虐待された女性たちをめぐる秘密組織にカーソンとハリーが秘密捜査官を送り込むHer Last Screamなどが、『イン・ザ・ブラッド』以降も我々読者を待っている。

 これらシリーズ続刊が日本でも続々と訳出されるためにも、新機軸満載の『イン・ザ・ブラッド』が、読者の熱い支持を得られることを祈る。それだけの価値は絶対にある作品なのだから。

イン・ザ・ブラッド
ジャック・カーリイ・著 三角和代・訳

定価：830円＋税 発売日：2013年10月10日

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