- 2013.12.20
- 書評
「刑事小説」の域を超越した壮絶な人間ドラマ
文:内田 剛 (書店員)
『凍る炎 アナザーフェイス5』 (堂場瞬一 著)
出典 : #文春文庫
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
「並外れた高揚感」、「手に汗握る衝撃」、「予想を超越する展開」、「徹底的なリアリティ」……堂場瞬一作品の長所を伝えるにはいかなる褒め言葉も軽薄に思えてしまう。とにかく読者に手に取って一読してもらいたい。店頭に並べながら頭を過るのはその一念のみである。読者がいま最も待ち焦がれる作家のひとりであることは疑う余地もない。その脂の乗り切った筆力には新作刊行の度に驚愕するばかりである。
今回の新作は文春文庫『凍る炎』とハルキ文庫『刑事の絆』の2作連続刊行の注目作品として、レーベルを超えた販売促進企画もあり大いに書店の現場でも話題となっている。前者は「アナザーフェイス」、後者は「警視庁追跡捜査係」ともに5作目に突入した人気シリーズ最新刊だ。両シリーズで累計140万部突破という数字からも伺えるように名実ともなった充実度は今さら詳細に述べるまでもないだろう。警察を舞台にした作品は巷に数多あるがこれほど熱く完成度の高い作品にはめったに出会えない。
ここで個人的な堂場瞬一体験に触れておきたい。デビュー時から新聞記者ならではの鋭い視線と感性で優れた作品を世に送り出す作家として注目をしていたが、その名声を決定付けたのが中公文庫「刑事・鳴沢了シリーズ」と「警視庁失踪課・高城賢吾シリーズ」であろう。2文字タイトルのインパクト、迫力の伝わる装丁、圧倒的な厚み。TVドラマ化という順風を受けて文庫コーナーを勢いよく飛び出し話題書コーナーでの展開強化をしても追加補充が追い付かないほどの状況が続いた。
当代随一の人気作家として定着した、ここ数年の勢いは増すばかりである。デビュー作が野球を題材とし、小説すばる新人賞受賞作の『8年』であることからもわかるようにスポーツ小説のジャンルでも注目作が多数だ。私事ながら単行本の帯に感想コメントを載せていただいた『八月からの手紙』(講談社)がとりわけ思い入れが深い。平板なスポーツ小説ではなく国境も人種も勝負をも乗り越えた、交差する人生の悲哀が伝わり激しく胸を揺さぶられ、その筆力の確かさをまざまざと見せつけられる思いがした。
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