- 2013.12.20
- 書評
「刑事小説」の域を超越した壮絶な人間ドラマ
文:内田 剛 (書店員)
『凍る炎 アナザーフェイス5』 (堂場瞬一 著)
出典 : #文春文庫
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
その後、出版社3社主催の著者を囲む会にて直接お会いする機会をいただき、今度は、ルックスだけではない人柄の素晴らしさにも触れ感銘を受けた。小説に対する熱意や造詣の深さのみならずユーモアを絶妙に取り混ぜた語り口やスマートな仕草に至るまで、とにかく存在自体が魅力的だった。読者のみならず出版社にも書店員にも味方を増やし続けている理由が瞬時にして理解できた。
そしてどうしても語らねばならないのは『凍る炎』『刑事の絆』の読みどころである。この2作品の結びつきがあまりにも刺激的だ。メタンハイドレートまで飛び出すスケールの大きな企業犯罪を追いかける疾走感あふれた展開も見事な『凍る炎』。そのラストと『刑事の絆』の冒頭シーンに思わず言葉を失った。まさしくシリーズ最大の危機の象徴的な場面だ(この緊迫感と作品を横断した交錯の妙はぜひ実際にお読みいただきたい)。
獲物を追う猟犬のような感覚で冷酷な犯罪に立ち向かう凄まじい情熱。犯行現場に流される血が多ければ多いほど高まりゆく職業人・刑事としての矜持。まったく容赦ない非情な事件と対峙する人々の焦燥と苦悩……アドレナリン出まくりの眩暈がするほど激しい展開の後には、危険すぎる日常が待っていたのだ。守るべきものがあるから刑事は己の人生を貫き通すことができるのだろう。熱血刑事・大友鉄の魂を呼び覚ますために必要だったのは精神的な安定。さらに健気な少年・優斗くんの成長と、悪に狙われた友を救うために身を投げ出して闘う沖田・西川の名コンビの情熱が作品の重要な軸となっている。すなわちキーワードは、「家族」と「仲間」そして「絆」と「情」である。激しい男臭さと優しい生活感の共存が印象的だ。
「血」は流されるばかりではない。しっかりと受け継がれていかなければならないのもまた血脈という名の「血」なのだ。これは「刑事小説」の域を超越した壮絶な人間ドラマだ。ただ面白いだけではない深みと同時に凄みをも持った、留まることを知らない堂場作品の真骨頂ともいうべき躍動感を心ゆくまで味わってもらいたい。この入魂の二作品の共鳴は必ずや読者の魂にもダイレクトに届くはずだ。
-
『赤毛のアン論』松本侑子・著
ただいまこちらの本をプレゼントしております。奮ってご応募ください。
応募期間 2024/11/20~2024/11/28 賞品 『赤毛のアン論』松本侑子・著 5名様 ※プレゼントの応募には、本の話メールマガジンの登録が必要です。