2013.05.13 インタビューほか

人気俳優が余命1年にかけた人生の証

「本の話」編集部

『余命1年のスタリオン』 (石田衣良 著)

人気俳優が余命1年にかけた人生の証

――石田衣良さんの新刊『余命1年のスタリオン』は、がんを告知された中堅俳優、二枚目半の小早川当馬が残された時間のなかで最初で最後の主演映画にかける姿、それと並行して自分の子どもをつくるために奮闘する物語です。

石田 この小説は現在の自宅に越してから企画し、書きはじめたので、舞台がこの近辺、渋谷、目黒の住宅街になっています。また、その頃映画への出演依頼があって、別に俳優になるつもりがあったわけではなくて、映画界の取材を兼ねて引き受けたのですが、監督や脚本家の仕事ぶりを目の当たりにすることができました。華やかな世界に生きていても、実は堅実だったり普通だったりする彼らの姿を描ければいいかなと思いました。

――かつて華やかだった映画界の現状は、今も頑張ってはいますが、日本の現在の姿と重なってきますね。

石田 そうですね。だんだんと縮小していく世界の中でなんとかいい仕事をしようとする。俳優は特殊な世界の職業と感じられるかもしれませんが、今私たちが生きている社会の縮図とも見えますね。プロデューサーと話をすることがありますが、自国の映画でハリウッドと互角に渡り合っている国は少ない中、日本の映画界は健闘していると思います。

――主人公の闘病が大きな柱になっていますが、石田さんの小説の中では珍しい作品ではないでしょうか。

石田 小説にも書きましたが、企業の中にはがんにかかったとわかると退職の対象になったり、住宅の賃貸契約が更新できなくなったり、ということがまだまだあるようです。死因の3分の1ががんで国民病とでもいえる状況ですから、もっとオープンになってもいいのかなと思います。病気は個人的なものですが、がんは周囲への影響も大きく社会性があります。当馬は芸能人であることを生かして、病気のデメリットを逆手にとって自分のメリットにし、主演映画の製作にこぎつけます。なんでも「売れるものは売って」目的を遂げます。そういう意味では芸能人らしいですね。

 ただ最近の日本に蔓延しつつある「愛国」の風潮には懐疑的です。国のためになにができるかとか、絆礼賛とか。大震災と中国の台頭以降、日本人は弱気になったようです。エンタメ小説でも特攻隊や自衛隊賛美のようなテーマが普通になりました。読者に応じて、小説も急に保守化しているようです。小説は本来、最も自由なものであるはずですが、伸びやかさがなくなりつつあるように感じます。『余命1年のスタリオン』を自分で書き読み直して、普通の人が等身大の努力をする物語で安心しました。これくらいが僕自身にはあっていますね。ことさらに熱く語るものよりも、さらっと読んで、大人がなかなかいい本だったな、と感じるくらいの本がいいと思っています。

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余命1年のスタリオン

石田衣良・著

定価:1890円(税込) 発売日:2013年05月16日

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