人を通して短くなった台湾との心理と距離
――書名の『路(ルウ)』は、2国間の結実である台湾新幹線の走る線路であり、登場人物たちの人生が重なったり離れたりする道であり、まさにこれしかないというタイトルですね。
吉田 台北の道、通りが好きなんです。作中にもいろいろな通りが出てきます。例えば仁愛路は何車線もある大きな道路ですが、並木が素晴しく見事で南国の樹木がまるで森のようになっている。タクシーに乗って「~路(ルウ)」と場所を指示する、その「ルウ」という発音もまた好きなんです。台湾だけでなく中国でもそのようですが、信義、忠孝など道路の名前は儒教の八徳から取られています。道に信義とか徳目の名前をつけるのって素敵だなと思います。
それにしても『路(ルウ)』は台湾好きな僕が、台湾の魅力的なところやいい部分を詰め込んだ、「台湾が大好きです」という小説になりました(笑)。今は、台湾では新幹線の開通によって台北―高雄が日帰りできるようになり、日本―台湾も飛行機で日帰りできるようになりました。敗戦後、船で何日もかけて帰ってきた老人にとっての遠い台湾と、若い人が感じる近い台湾というギャップも興味深いし、時間が短くなることで距離がぎゅっと縮み、心理的なものも近くなる気がします。
――さて、文庫の『横道世之介』ですが、これは毎日新聞に1年に亘って連載されたものですね。
吉田 連載期間に合わせて、1年間で収まる話にしようと最初に考えました。長崎から上京してきた18歳の世之介の、大学生活の1年間を描いた小説です。
――主人公の世之介は、押しは弱いけれど隠された芯の強さがあり、様々な出会いと笑いを引き寄せる、愛されるキャラクターです。読者は長崎出身の吉田さんに重ねて読んでいる方も多いのではないでしょうか。
吉田 世之介を書くのは楽しかったですね。笑いながら書いていました。エピソードは僕の学生時代と重なりますが、僕はあんなに愛らしい人間じゃないですね(笑)、彼のキャラクターは僕とは全然違いますけど。
――『横道世之介』は沖田修一監督、高良健吾主演で来春映画公開されますが、試写をご覧になってのご感想は。
吉田 本当にいい映画にして頂いたと思います。俳優さんが皆さんとても魅力的に演じて下さって。世之介は「普通の学生」というのをキーワードに語られることが多いのですが、普通っていうのは実はレベルが高いんだなと映画を見て感じました。世之介が普通だとすると、自分も含めこんな幸福な学生生活を送った人はそんなにいないんだろうな、と。
そうそう、世之介と台湾って僕の中では同じものなんです。温かくて、のんびりしてて、ちょっと狡いけど憎めず、皆から愛されるところが。