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サッカーとともに辿る同時代

サッカーとともに辿る同時代

文:戸塚 啓 (スポーツライター)

『ワールドカップ戦記 波濤編 2002-2010』
(スポーツ・グラフィック ナンバー 編)


ジャンル : #ノンフィクション

 日本代表を取り巻く環境は、目まぐるしく移り変わっている。環境が変われば、判断基準も修正される。だが、基準となるべき前例を、日本サッカーは持っていなかった。それゆえに僕も、足元が不安定なままに原稿を書いていたような気がする。文字どおりに大きな「波濤」を越えて、日本サッカーの現在はあるのだ。

 南アフリカ大会の戦いぶりには、個人的にいまなお納得できないところがある。ただ、チーム全体の一体感を大切にした岡田監督のメンバー選考は、間違いなくドイツ大会の失敗を教訓としたものだった。日本人が持つ技術を素早いパスワークへ結びつけ、小柄な体格ゆえの敏捷性をフル活用した戦略も、打ち負かされた歴史から学び取ったものである。

 イタリア人のアルベルト・ザッケローニ監督が率いる現在の日本代表は、'14年のブラジル大会へ向けてアジア最終予選を戦っている。6月に行なわれた3試合は、ホームでオマーンとヨルダンを下し、敵地でオーストラリアと引き分けた。2勝1分はグループ首位である。

 海外クラブに所属する選手が代表チームに占める割合は、3分の2に迫る勢いだ。欧州の新シーズンが幕を開ける今夏には、新たに2選手が欧州へわたることもすでに決まっている。代表チームがまとまった強化期間を確保するのは、さらに難しくなっていく。

 それでも、勝利を引き寄せるためのノウハウを、我々は共有している。ワールドカップから逆算して、その時々でクリアすべき課題が整理されてきた。目前の結果に一喜一憂することなく、継続的な視野に立って日本代表を論じられるようになっているのだ。

 ひとまず好スタートを切ったブラジル大会アジア最終予選も、正念場はまだ訪れていない。ザッケローニ監督と彼が信頼する選手たちは、一度ならず試練に直面するだろう。

 そのとき、我々はどのように現状と向き合えばいいのか。本書を開くことで、ヒントを見つけることができるはずだ。飛翔編、波濤編に続く第三編は、現在進行形で紡がれている。

ワールドカップ戦記 波濤編 2002-2010
スポーツ・グラフィック ナンバー 編

定価:780円(税込) 発売日:2012年07月10日

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