食欲旺盛にもほどがある日々を、何の反省もなく過ごすこと約3週間。また、そろそろ検診にでかけねばならぬ時期になり、わたしは母子手帳とともに区役所で交付してもらった補助券をもってM医院にでかけていった。人気がある産院のせいか、先輩妊婦であるミガンから「今日は3時間待ったわ」とか「今日は2時間待ちやった」とか聞かされていたのだけど、ありがたいことに、わたしの場合、ここに通った1年を通して待たされたという感じがあまりないのよね。
しかしM医院は、予想はしていたけれど、ちょっと高い。何が高いって診察費がやっぱりこれ、高額なのだった。出産にむけての通院をM医院以外でしたことがないので他院の詳しい事情はわからないけれど、聞くところによると、普通分娩のスタンダードな産院の場合は、毎回毎回の診察にお金がかかることってほとんどないのだそうだ。というのも、妊娠すると、自動的に先にも書いた補助券というのをもらえるからで、だいたいはそれで相殺されるのらしい。けれどM医院や、ほかの無痛分娩の産院では、保険との兼ね合いなのか何なのか独自のお会計システムというかルールがあるようで、毎回補助券を出してもプラス(少ない時でも)6千円~、平均して1万数千円~を支払うことになっており、補助券が切れる最後のほうなどは数万円にもなったりして、これが、も、毎回なのである。
ま、費用の詳しいことはあらためて書くとして、とにかく今日からは2週間に一度の検診の時期に突入する6ヶ月。慌ただしく、しかしねっとりと始まった妊娠生活も、早いものでもう折り返しなのだなと思うと不思議だった。脂肪がついただけで、まだそんなにお腹も大きくなってないしなあ。
検診ではまず血圧を測り、検尿をして蛋白と糖の多さを調べ、むくみをチェックし、診察室に通されてから体重を測り、そしてお腹まわりを測定する。子宮のだいたいの大きさをお腹のうえから推定して、毎回この7つの数値が母子手帳に記録される。今日は1ヶ月ぶりで久しぶり。体重はどれくらい増え、そして子宮はどれくらい膨らんだのだろうか。なにより、赤ちゃんは元気なのだろうか。今日は顔がみえるかな。少しうきうき、うれしいような気持ちでもって、わたしは診察室のドアを明るく開けた。
「よろしくお願いしまーす!」と愛想よく入っていったわたしの顔をみて院長先生は(かなり若く見えるけど、もうここで30年ほど院長を務めているけっこうお年を召した男性の先生です)、「こんにちは」とかの挨拶もないままに、いきなり「何回目?」と訊いてきた。はい? 先生ってばいったい何のことを訊いてるんだろうか。ここにくるのが何回目かってことかしら。えー何回目だろう……なんてもごもごしてると、「エアロビ。エアロビ、いま、何回目?」。院長は、最初にこのM医院を訪れてからエアロビに何回参加したのかを、わたしに問うているのだった。「もう20回は超えてるころかな」。
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