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第7回 恐怖のエアロビ

第7回 恐怖のエアロビ

川上 未映子


 家に帰って、院長による本気のエアロビ推しについてあべちゃんにすぐさま報告した。「あれは本気やで。エアロビやらんかったら、生ませてもらわれへんような気するわ」。

「そうか」

 とりあえず(仕方なく)、数万円を支払って入会したけれど、でも仕事があるし、毎日エアロビクスしにいく気力も体力も余裕もない。いや、それまで存在しなかった気力や体力や余裕を、出産へむけてつくるためにエアロビをするんだよ、っていう解釈もあるだろうけれど、週に一度、検診に通うのだって「ああ時間がない」と言いながらやっているのに、やっぱり無理。わたしはミガンに、いったいどうやっているのか(どうやってごまかしているのか)をきくために電話をかけた。

「エアロビ行ってんの」

「行ってないよ」とミガンは当然ぶった声で言った。

「行ってないよな! だってミガンなんか現場あるし絶対的に無理やんな! 時間ないよな!」とわたしはがぜん頼もしくなり、思わず声が大きくなった。

「あるかいなそんな時間」

「そうやんなっ、そうやんなっ」

「そうや」

「でも、めっさプレッシャーやんか……先生」

「でも無理やもん」

「無理よなあ」

「むりむり」

「じゃあどうしてんのよ」

「え、わたし? わたしは、ほれ、受付のところでDVD売ってるやん。あれを家でやってますって感じにしてる。なんとなく」

「まじか」

「そうそう。訊かれるやん、入ってすぐ。そしたらめっちゃ自信たっぷりな感じで『家で1時間くらいしてます!』って言って、それでその話題は終わりな感じにするねん。それでもちゃんと通えって言われるけれど、わたしってそういういわゆる先生方面からのプレッシャーをスルーするの得意やねんなあ、昔から。そやからけっこういけてる」

「まじか」

「だって、通うなんてぜったい無理。併設スタジオに入会してそこに通うことが目的なんじゃなくて、エアロビすることじたいが目的やねんから、家でやればそれでまったく問題ないはずやん」

 だからと言って家でやってるわけでもなんでもないミガンだけれど、しかしまあ、そのとおりではある。何万円も支払ってない時間を削っていくより、DVDで、全然いいですよね。でも、こないだ先生は、たしかこんなことも言っていた。ひとりでやっても意味なくて、みんなで汗を流すことが大事なんだ、って。じゃあ、併設スタジオじゃないけれど、でも家の近くの、もしくは自宅のスタジオでやってるよ、というふうにしておけば、誰も傷つかず、誰もストレスがたまることもなく、万事快調ってな具合にすべてが収まるのではないだろうか。で、わたしは家で、やれるときにDVDをみて、ちゃんと汗を流す、と。場所の設定に若干の飛躍があるような気がするけど、思い込めばリビングだって、スタジオっちゃあスタジオであるような気がしなくもないではないか。オッケー。これからはこの設定でいこう。我が家のリビングは今日からスタジオも兼ねるようになったのだ。そんなふうに固定されると、なんだか少し、肩の荷が降りたような感じがした。  

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