雑誌「中央公論」編集長を長く勤め、戦後の論壇で活躍する多くの書き手を育てた粕谷一希は、昭和五年(一九三〇年)、東京生まれ。東京大学法学部卒業後、昭和三十年、中央公論社に入社する。
「中央公論」昭和三十五年十二月号に掲載された「風流夢譚」(深沢七郎著)が物議を醸し、翌年二月、嶋中鵬二社長宅が暴漢に襲われ、使用人の女性が死亡する事件(「風流夢譚」事件)が起こり、社内は混乱に陥った。このとき粕谷は「中央公論」編集部次長に就任する。そして昭和四十二年には編集長となり、この間多くの筆者をデビューさせた。
学生時代から、京都学派に傾倒していたが、編集者となってから、しばしば京都を訪れ、交友を深めていった。論壇では左翼思想が全盛だった時代に、現実主義的、保守主義的路線を強め、政治学者の高坂正尭、永井陽之助、歴史家の萩原延寿らの論文が誌面を埋めた。また、山崎正和、塩野七生、庄司薫、白川静ら多彩な顔ぶれがここから活躍の場を広げていった。良質な知的論考を好み、「学問の香りがする」という言葉をよく口にしていた。
昭和五十三年に中央公論社を退職後、「二十歳にして心朽ちたり」を上梓。
また雑誌「東京人」「外交フォーラム」を創刊し、編集長を歴任、サントリー学芸賞の創設にもかかわった。平成二十六年(二〇一四年)五月逝去。写真は平成六年撮影。
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