こしらえがおわって大きな春潮(はるーしお)と,鏡のようにたしかめあった.私たちはまったく相似のなりをしていた.ゆたかに厚い猩猩緋(しょうじょうひ)のかぶり毛,朱いろ地にきんのうずわが巻き五しきの小菊がぬわれ,雪白の足もとからはせりあがるきんの波のはかまが堅く奢っている.
私たちははしゃいでいた.そして春潮(はるーしお)は出ていこうとしていた.おもいきめたべつの道をすすむためにつぎの会にはもういない春潮(はるーしお)だとそのときはまだすこしも知らなかったのに,また,私が出ていく見通しなどまるでありはしなかったのに,私たちがたしかめあったのはべつの圏の生きものとしての乾いた明るいたかぶりだった.未来から照りかえしてきたらしい野放図な晴朗だった.
月白(つきしろ)がのぞいて大きな猩猩だとあきれたように言い,春潮(はるーしお)の親がやはりあきれたように,そだちすぎてとこたえたが,それはどちらも,大いに気にいったといういみなのが目にも声にもあらわであった.がくやうちに華やかなきぬぎぬはあふれていても,おなじこしらえが二つ並んでいるきんと赤とのかさはきわだち,やせてたわむせいでふだんは内わに見つもられがちな身たけが,張りのつよい錦ににわかにそばだっていた.
ぶたいそでに出る通路はせまかったので,うしろから追いついてきた月白(つきしろ)に道をあけようととっさに両がわに分かれて向きあった私たちは,できるだけ壁に貼りつくそぶりにつまさきだって見せた.門の柱のようなとわらいだして左右を見くらべる月白(つきしろ)は大げさなあおむきかたでおどけにこたえたが,ほんとうのところ私の背が三千にちもまえから,春潮(はるーしお)の背も三百にちはまえから月白(つきしろ)を越していることを私は知っていて,それをひたすらつまさきだったためとだけおもわせておきたかったのだ.
そして私たちは出ていった.
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『赤毛のアン論』松本侑子・著
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