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年間2000億円を回収するOLの<br />辛すぎる職場を乗り越える方法

年間2000億円を回収するOLの
辛すぎる職場を乗り越える方法

文:榎本 まみ

『督促OL 修行日記』 (榎本まみ 著)


ジャンル : #ノンフィクション

「今度電話して来たら殺す――」

 仕事を始めたばかりの頃、お客さまが電話口で言った言葉に、私は一瞬にして固まってしまいました。

「ひっ! ご、ごめんなさいぃぃ!」

 そうやって情けなく謝って電話を切った後、私は周りにいた先輩や上司に震えながらお客さまに言われた言葉を訴えました。ところが周囲の反応はとっても冷ややか。

「ああ、よくあることだから」

(よくあるの!?)

「大丈夫、N本さんを殺しても、相手の借金はなくならないからね」

(そういう問題なの!?)

 ……もしかして、自分はとんでもない所に就職してしまったんじゃないだろうか――電話機を握りしめながら、私は圧迫感のある異様に低いコールセンターの天井を仰ぎました……。

 はじめまして。私は「督促」という仕事をしているOLです。「トクソク」って、あまりなじみの無い言葉ですよね。督促とはクレジットカードやローン、光熱費、家賃など、何かしらの支払いの滞っているお客さまに対して「お支払いをお願いします!」と入金のお願いをするお仕事の事です。ぶっちゃけて言ってしまえば借金の「取り立て」です。

 私、N本は、新卒でクレジットカード会社に入社し督促を行うコールセンターに配属されました。そこで私に課せられたのは、社内でも指折りの問題債権と恐れられていた、キャッシング債権の回収。電話をするお客さまのほとんどが支払い困難。大半のお客さまはお金が返せないので、とにかく怒鳴る、泣く、脅す――あまりのハードさに女子社員は次々と辞めてしまい、私が入った頃その部署は「男子校」と呼ばれていたほどでした。

気弱で口下手だった自分が……

 私は元々人に何かを強く言える性格ではありませんでした。街を歩くと必ずキャッチセールスに引っかかり、電車で隣に座ったおじいさんに延々と宗教の勧誘をされ、降りたい駅を乗り過ごすような女子大生でした。

 そんな性格の私が督促なんて出来るわけがありません。私の回収成績は初めからぶっちぎりの最下位。お客さまには怒鳴られ、上司には怒られ、ストレスから私の体重は入社半年でめでたく10キロ減ってしまいました。

 そんな私が今回、出版を志したのは、世の中に「督促」という仕事を知ってほしかったから。だって理不尽じゃないですか~! 貸したお金を返してくれないのに「返してほしかったら土下座しろ!」とか「いいかげんしつこいのよ! このストーカー!」とか怒鳴られる仕事って……。合コンじゃ督促をしてるっていうとモテませんし、本当に損な商売だなぁと思います。

 と、私自身の事は置いておいても、私の働くコールセンターでは、今でも毎月のように心を病んで働けなくなるオペレーターがいます。

 今コールセンターで働くオペレーターのほとんどが派遣社員、アルバイト、パートなどの非正規雇用のスタッフです。コールセンターは他業種よりも時給が高いので、募集をかけるとたくさんの応募がありますが、30人採用しても2カ月後残っているのは5人と言った有様です。

「N本さんごめんなさい、もう限界です……」

 自分の母親と同い歳位の女性オペレーターが電話口でお客さまに罵倒され、ポロポロと涙をこぼしながらコールセンターを去って行く、そんな光景を私は何度も見てきました。

 なんとか出来ないのか? どうにかして、こんないつ誰が倒れるかわからない、戦場のようなコールセンターを変えられないのだろうか?

 そう思った私は、人に強く言えない自分の身を実験台にして、ハードな職場で心を守る方法や、相手を怒らせずに言いにくいことを伝える交渉術を研究してきました。その結果、お客さまに怒鳴られ言い負かされてばかりだった私は、コールセンター最大の300人のオペレーターに指示するチームに最年少で選出され、年間2000億円の債権を回収することになったのです。

 この本の中には私がお客さまに理不尽な事を言われ、怒鳴られるトホホな毎日と、少しずつ督促ができるようになっていく過程をエッセイとして書かせていただきました。今お仕事で辛い思いをしている方がほんの少しでも笑ってくれたら、そしてこの本から理不尽な出来事から心を守る盾や、相手に言い返せるようになる武器を得てくれたなら、とても幸いに思います。

 気弱で口下手だった私は、督促のおかげで相手に気持ちをちゃんと伝えることができるようになりました。このお仕事に出会えたことを、今ではとても感謝しているのです。

『督促OL 修行日記』

榎本まみ・著

定価:1208円(税込) 発売日:2012年09月22日

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