もしも「迷いのない人生」を歩むことが出来たなら、どれほど気持ちが楽になれるのか。そんなことをふと考えて、ため息を吐(つ)いた経験があるだろうか。世の中には、確実に自分の道を歩き続けている人がいる。彼らは精度の高い地図を持ち、立ち止まることなく目的地に進んで行く。装備も万全で、稀(まれ)に道を誤ってもすぐにルートを再検索することが可能だ。
それに比べて私の手にしている地図は、あまりにも大まかで、だからしばしば道に迷う。わき道も行き止まりも行ってみなければ分らず、ろくな装備もないものだから少しの雨風ですぐに足が止まる。無駄に体力を奪われて歩くことさえ嫌になる。明らかな「迷子」状態。けれど、子供のように泣くことも出来ない。泣いていたって状況が変わるわけではないことぐらい、もう充分知っている年齢だからだ。
本書の主人公ふたりもまた、泣きたい気持ちを堪えながら地図を見つめる、「人生迷子」になりかけた「大人」である。
警視庁捜査一課に所属する黒田岳彦(たけひこ)は、大卒で警視庁に入庁して以来十数年、ノンキャリアながら順調に出世街道を走ってきた。期待され、注目され、将来に自信も持っていた。だが、その運が、ある事件で尽きた。間違いないと、天職だとまで感じていたエリート刑事としての道が突然途切れ、このまま迂回して進むべきなのか、それとも新たな地図を用意すべきなのか、答えが出せずにいる。