「お金が欲しい」
子供の頃からずっとそう思いつづけている。
十歳になるよりも前から、将来に対する不安があった。運動はできないし、勉強も得意ではないし、コミュニケーション能力が低くて、友達は少ない。いったい、どんな職業につけるのだろう。父親がいなかったため、結婚したところで、安泰というわけではないことも知っていた。
短大を卒業すると、私はフリーターになった。演劇関係の仕事をしたいとか、小説家を目指しているとか言っていたが、そのための努力はせず、アルバイトしかしていなかった。朝から夜まで、日によっては夜から明け方まで、毎日のように働いても、生活は楽にならない。二十六歳の誕生日に「ヤバい!」と、感じた。このままでは、三十歳になっても四十歳になっても、フリーターのままだ。そして、いつか正社員どころか、アルバイトでも採用されなくなるだろう。本気を出して小説を書き、三十一歳で小説家になった。
ありがたいことに順調に仕事をいただけて、しばらくゆっくりできそうなくらいのお金も貯まった。それでも、私は今も「お金が欲しい」と思いつづけ、仕事を詰められるだけ詰めて、心身ともにボロボロと感じても休むことはできないで、働いている。私が必要としているのは、お金ではない「何か」なのだ。
この数年、「貧困女子」という言葉をよく聞くようになった。彼女達も、お金があれば、救われるわけではないと思う。私と彼女達に足りない「何か」、それが何なのか、『神さまを待っている』を書き終えるまでに見つけられるといい。
「別冊文藝春秋 電子版10号」より連載開始
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