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模型、人生、いろいろですなあ……

模型、人生、いろいろですなあ……

文:青島 幸男 (前東京都知事)

『田宮模型をつくった人々』 (田宮俊作 著)


ジャンル : #随筆・エッセイ

 私も子供の頃から模型作りは大好きだったし器用なものだと云われて得意になっている様なところがあった。子供心にこれは親ゆずりでどうも父親に似たのかもとも思っていた。

 私の父親という人は、私とおんなじ血液型で共にAB型、熱しやすく冷めやすく、むらっ気で我がままで飽きっぽい。

 私がゴム動力で飛ばす飛行機なんてのを買って来てこれを組み立てていると、

「面白そうだな、手伝ってやろう」なんて云って取り上げてしまい、私に手を出させないでさっさと作りあげてしまう。

「さあ、出来たぞ、公園へ行って飛ばしてみよう」なんて云って、どんどん出かけてしまい、一、二回飛ばしてみるとすぐ飽きてしまい、飛行機がコワれるともう見る気もなくなるらしく一人で先に立ってどんどん家へ帰ってしまう。全くあきれかえった性格の人だった。

 気に入ったものに出逢うと、幾晩も徹夜で頑張るのも平気という全くはた迷惑な人だった。今冷静に考えて見てもたしかに私は父親似だ、困ったもんだと反省している。が仕方がない。

 三十年位前の事だったと思う。私の息子が模型飛行機にコッた事があった。

「関東昇龍会」なんて暴力団みたいな名前の同好会のメンバーになって、多摩川の川原とか、そんな所へよく出かけて行っては、エンジンを動力とした、ワイヤーコントロールの飛行機を飛ばすのに一時期夢中になった事がある。

 私もその時は、何か夢中になれる事があったら、トコトンのめり込んでみるのが好かろう、と思ったので、テラスに、換気扇付きの作業小屋を作ってやり、思う存分模型作りに熱中すればいいと云ってやった。そして彼が出かける度に、カメラを持っていって、スナップ写真や、彼が作り上げた飛行機を撮って来て、四つ切りや、キャビネ判に伸ばし、『飛行少年の記録』と名づけたアルバムを作ってやった。

 ワイヤーコントロールという、ラジオコントロールと比べると、制約の多い操作手段だから操縦に面白味も少ないだろうと思われるかも知れないが、これには又、いろいろな飛ばし方や、ルールがあって、中々どうして奥が深くて面白い。

 息子もまだ子供だったので、そんなに高度なテクニックが必要なほどではない。

 もっぱら私は、彼が中心地点でコントローラーを持って立っているまわりを、飛行機の胴体を持って走りまわり、彼の飛行機を、見事に飛行させる役をやって居た。

 それも、私の父親との交流の中から自然に身についたやり方だったのだと思って居りました。

 息子との付き合い方には色々と気を使っていたつもりですが、あとで聴いて見ると、やっぱり彼のオモチャを勝手に取り上げて、自分だけ夢中になっていたものがあると云われ愕然としたことがあります。

 何とそれは、田宮さんの所のミニ四駆だとのこと、私にはまるで記憶にはないのでありますが、ある日彼が夢中になっていたミニ四駆を私が取り上げて、勝手に夢中になっていた、とうらめしそうに私に云ったのであります。

 その時私はあらためて血は争えないなあと思ったのであります。

 それから又何年かたちました。

 その当時私は、新宿のセンチュリーハイアットと云うホテルに、番組や雑誌の打ち合せ等で、何度か行く事があったのですが、その時ふと窓から外を見ますと、たしかあれはハイアットホテルの東南に位置していたと思うのですが、消防署が訓練に使っていた広い空地があった筈でした。

 何でその空地に興味があったのかと申しますと、その空地こそが、私が息子の飛行機の胴体を捧げ持って、息子のまわりを走り回っていた空地であったのです。

 その空地こそ、今の都庁ビルがそびえ建っている土地でありました。

 当時私は、中野のブロードウェイコーポの十階に住んで居りましたので、遠隔の地ではありましたが、あそこに今建設中の都庁ビルには、やがて私が東京都知事として乗り込むことになると密かに望んでいたのです。

 人間永く生きていれば、いろいろな事になるもんでありますなあ……。

 いろいろな夢を見、様々な方々の協力を得、自らも営々と苦労を積み重ねて今の大田宮株式会社を立ちあげてこられた田宮俊作氏の永年の御苦労と努力をたたえると共に、人生の不思議に思いを致して居ります。

 勝手に私の思い出ばかり書いてしまいましたが、この本は誰でもが知っている田宮模型の歩みを面白く綴ったもので、模型に興味のある方にも、ない方にも心からおすすめする一冊です。ぜひ御一読を!

単行本
田宮模型をつくった人々
田宮俊作

定価:1,466円(税込)発売日:2004年09月25日

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