――次の「はにかむ甘食」は?
柚木 「タモリ倶楽部」が大好きで。今日本人は、本は読むのにテレビは見なくなっているから、私だけはテレビをしっかり見てやる、と心に決めているのですが(笑)。その「タモリ倶楽部」で荒木町を取り上げたことがあって、面白そうな街だなあ、と。小説の舞台になるかもしれないと思い、文藝春秋での打ち合わせのあと、近くなので歩いてみたんです。そうしたら地形が擂り鉢状であることに気付いて。これ、甘食を伏せた形だな、と思いました。甘食ってアラサー同士の「懐かしいおやつ話」で盛り上がりそうなネタで、知らない人もいるし。美味しいものと美味しくないものの差が激しいところも話を作り易いな、と思ってあの1篇は出来上がりました。
――「胸さわぎのハイボール」は全篇中で1番苦いですね。
柚木 稲荷寿司、甘食と子供っぽい食べ物が続いたので、そろそろ大人の味を出さないと、それにはお酒だな、と決めて。あと「満里子」へのテコ入れですね。気が強いけれど実は脆い、とても綺麗な子で、私の大好きなタイプなのですが、読者からの評判が悪くて。意外といい奴なんだよ、ということを分かって欲しくて書きました。しっかり取材しましたよ。編集者と10数軒のお店でハイボールを飲みました。ウイスキーとソーダの割合が少し違うだけで別物になる。紫蘇を入れてもレモンを入れてもライムを入れてもいい。ハイボールなんてどこも同じだろうと思っていたので目から鱗が落ちました。
――ハイボールの味の違いがこのお話で重要な役割を果たしますね。「てんてこ舞いにラー油」は新婚の薫子が家事と激務との両立に苦しみます。あれも新婚の柚木さんの体験が基になっているのでしょうか。
柚木 私の場合は薫子ほど忙しくないので「両立」の悩みというより、片付けができなくて困っているんです。料理は好きなので苦にならないのですが。雑誌が大好きで、女性誌、週刊誌、ビジネス誌となんでも読むのですが、それを捨てられないので、どんどんたまっていく。見かねた親友がある日片付けに来てくれて。彼女が目の前で「これはもう着ないでしょ。似合わなくなっているし。雑誌は必要になったら図書館にバックナンバーがあるよ」と言いながらどんどん束ねて運び去っていく。それを脇でボーッと眺めていた、その1日がヒントになっています。「誰か、私の代わりに整理整頓をして!」という夢が執筆動機でしょうね(笑)。
――でも、きっと料理はお上手なのでしょうね。
柚木 高校生まで料理研究家を目指していました。子供の頃、『若草物語』や『大草原の小さな家』、『赤毛のアン』など外国の本を読んでいて、見たこともない食べ物にとても惹かれました。「かぼちゃのパイ」、「塩漬けライム」、ホットケーキとは微妙に違うらしい「パンケーキ」……。食べてみたい、と母親に言うと「かぼちゃのパイ」を食べに連れて行ってくれたり、家で作ってみてくれたり。私も自分なりに研究してよく作っていました。本の中に出てくる食べ物を食べたい、作りたい、というところから料理をするようになったのです。
――最後の「おせちでカルテット」を読んで、今度こそおせちを作ってみるかなあ、という気になりました。今までは買ってばかりでしたが。
柚木 ぜひぜひ。参考文献に挙げた『有元家のおせち25品』はとてもいい本ですよ。美味しそうなの。
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『赤毛のアン論』松本侑子・著
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