書評

奥山景布子は琵琶法師である

文: 大矢 博子 (書評家)

『源平六花撰』 (奥山景布子 著)

 以上、駆け足ではあるが各編の要点と魅力、そして歌舞伎との違いを紹介した。

 共通して言えるのは、武力で人を圧することの否定。つまり戦争の否定だ。男が始めた戦に巻き込まれるばかりの女性を通すからこそ、説得力を生む。

 そしてもうひとつ、古典平家でも歌舞伎でも悲劇の象徴とされるか脇に追いやられるかだった女性たちに、前向きな結末を与えたという点を書いておきたい。

 常葉や千鳥は幸せの意味を知り、松虫は妹の将来に安寧をもたらした上で一念を貫いた。相模は誰よりも夫を理解し、建礼門院はすべての怨讐から解き放たれて新たな第一歩を踏み出した。静は――いや、これは興を削ぐので言わないでおこう。

 源氏も平家も関係ない。何が大事かは自分で決める。男が敵と戦うのなら、女は敢然と運命と戦う。あるいは悠然と運命を乗りこなす。ここにいるのは、自分で考えて道を決める、きわめて当たり前の、しかしこれまで描かれることのなかった女性の姿である。

 史実もこうだったらいいのに、と思わずにいられない。史実もこうであれば、どんなにか彼女たちは救われただろうに、と。

 それが物語の力だ。哀しみばかりが描かれてきた彼女たちの幸せな姿を、著者は読者に見せてくれる。読者は本書に描かれた結末を「ありえたかもしれない」と信じることができる。救われるのは作中の女たちだけではない。変える事のできない史実の前で歯噛みしていた読者もまた、救われるのだ。

 それは歌舞伎が、藤原長成や熊谷直実を主役に据えて、古典平家とは違った展開で観る者を感動させたのと同じである。本書が史実ではなく歌舞伎を題材にした意味は、こんなところにも現れているのだ。

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源平六花撰
奥山景布子・著

定価:590円+税 発売日:2013年11月08日

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