平成二十三年(二〇一一年)三月十一日午後二時四十六分。これは、日本人にとって、永く忘れられない日付と時刻になった。
東北地方太平洋沖地震――。
被災地のひとつ、宮城県南三陸町は、今回の地震で、消失した町のひとつである。
〈水が引いた現場を訪れると、ほとんどの建物が流され、まるで沼のよう。なんとか水圧を耐え抜いたコンクリート造りの五階建てマンションでも、その屋上に流された車が乗るなど、濁流の凄まじさを物語る光景が広がる〉(「週刊文春」三月二十四日号グラビアより)
写真は同町の惨状。津波はすべてを呑み込んでしまった。たしかに町は死んだが、それでも人は生きている。
〈生れて来た以上は、生きねばならぬ。敢て死を怖るるとは云わず、只(ただ)生きねばならぬ。生きねばならぬと云うは耶蘇(ヤソ)孔子以前の道で、又耶蘇孔子以後の道である。何の理屈も入(い)らぬ、只生きたいから生きねばならぬのである。凡(すべ)ての人は生きねばならぬ〉(夏目漱石「倫敦塔」より)
いまはただ、残されたすべての人々が生き延びて欲しいと切に祈るのみである。
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