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人事から見た財務官僚論

人事から見た財務官僚論

文:榊原 英資 (青山学院大学教授)

『財務官僚の出世と人事』 (岸宣仁 著)


ジャンル : #政治・経済・ビジネス

 もう一つ、民間にはない役所のユニークな点がある。それは、キャリアと呼ばれるエリートグループの人数が少なく、又、派閥がつくられるのを出来るだけ阻止するために同期の結束が強調されることである。筆者は四十年組(一九六五年入省)だったが、今でも同期とは親しくつきあっている。ある意味では、同期は競争相手なのだが、いつからか同期の結束を重視することで、組織としての役所の力を強くしようとする気運が、少なくとも財務省では高まってきたようなのだ。人事が総てであり、しかも、同期の連帯が大切だと一見矛盾するような命題を両立させてきたのが財務省だった。

 本書の第二章は「花の四十一年組」と題されている。早くから四十一年組は優秀な人材が多いと評価されてきた。強い年次に挟まれると、その期からは事務次官や財務官を出せないことがしばしばある。次官は一~二年、財務官は二~三年が任期で、毎年次官・財務官が出る訳ではないからだ。筆者の属する四十年組は強い三十九年組と花の四十一年組とに挟まれて、同期を要職につけるのは難しいのではないかと言われていた。しかし、四十年組はツイていた。一九九三年の政権交代以降、政治は混乱し、役所の人事の旧秩序も崩れてきた。そのお蔭で、四十年組は、事務次官・財務官・国税庁長官の総ての要職に同期を送り出すことが出来た。「花の四十一年組」との逆転がおきたのである。

 人事から財務省を分析した本書は、まさに財務官僚論としては一級のレベルに達している。「非主流派」の筆者についても一章を割いてもらったが、その叙述は正確である。こうした本はしばしば当事者から見ると「それはおかしいよ」というところがあるのだが、それが全くない。やはり、著者が人事という組織の肝(きも)を中心に組織や行政を分析しているからであろう。読んでいて大変なつかしい思いをさせられた。山口光秀、尾崎護、斎藤次郎。かつての財務省、いや、大蔵省と呼んだ方がいいのだろう、が髣髴(ほうふつ)としてくる。政治主導もいい。民主主義国家としては、政治が行政をリードするのは当然のことだろう。しかし、テクノクラートとしての官僚は健在であってほしい。かつての大蔵省のように……。

財務官僚の出世と人事
岸 宣仁・著

定価:798円(税込) 発売日:2010年08月20日

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