
「三崎さんの小説って、SFですね」
大阪の、某書店の書店員さんに言われた言葉だ。
「サイエンス・フィクションじゃなくって、『少し、不思議』の頭文字のSFです」
うん、言い得て妙だ。
私の小説の基本は、どこにでもある日常だ。そこに「少し、不思議」なものが入り込んでしまったからこそ、日常に大きな歪みが生じてしまう。その結果、私たちの日常そのものの「歪み」が炙り出されてくる、という仕掛けだ。
ところが、今回連載する作品は、いわゆる「異世界ファンタジー」……。「少し、不思議」な小説が成立する前提である「日常」そのものから遠く離れてしまった世界だ。私の持ち味の「少し、不思議」が成立し得るのか。もしかすると、「そんなの、不可能」の頭文字になってしまうんじゃないかという危惧がないでもない。
とはいえ、作家生活も十三年目ともなると、「少し、不思議」な世界でのおなじみの「すごく、不条理」な登場人物(?)も増えてきた。空を飛ぶ本と「本を統べる者」。ハーメルンの笛吹きのように人を巻き込んで行進し続ける「鼓笛隊」。本物の象の「象さんすべり台」。地面の下の失われた道の息吹を感じ取る「歩く人」……。今までの小説世界では窮屈だったキャラクター達も、異世界ではノビノビと活躍できるんじゃないだろうか。
「素敵な、ファンタジー」になるかどうかは「すこぶる、不安」なんだけれど、「それでも、奮起して」、「締め切りギリギリまで、踏ん張る」しかない。
「別冊文藝春秋 電子版11号」より連載開始