初めてづくしのおもしろさがあった
――主人公の青年サトルが、ある事情を抱えて手放すことになった愛猫のナナと懐かしい人々を訪ねてまわる。ロードノベルとしての筋立ては単行本の時と変わりませんが、絵本の文章はすべて猫語で綴られているのが印象的です。
村上 この猫語のリポートのおもしろさというのも、有川さんにしか書けない大変なものですよ。猫を擬人化した中に、少年をみるような感じがしてワクワクさせる。単行本とは違った作品の味が出ていて、それもまた楽しいところです。変わったという点では、僕の描いた人物も週刊誌で連載していた時とずいぶん変わりました。特にサトルは最初の原稿でイメージしたのは、現代っぽいクールな青年でした。それでキャラクターを作ったんですが、後半を読めば読むほど、まったく優しくて、ナイーブで出来すぎた青年だった。結局、絵本ではそこのところを顔から表情から全部、二枚目に変えました。繊細だし、すごく優しくて、猫が惚れずに、女が惚れるタイプの人物にね(笑)。彼に合わせ、戦闘的だった猫もずいぶんしなやかになった気がします。
僕は挿絵家としてデビューして50年になるけれど、長編の作品を絵本形式に持っていく仕事は初めてでした。それから、今回は全ページが墨とペインズグレーという英国の絵の具の色の2色刷りになっていて、これもまた初めてのことです。ペインズグレーというのは、冬の日本海の海の色。空と海の区別がつかないようなところから、雪が散っている景色というのが、僕はいちばん好きでね。若い頃にフランスやスペイン、ポルトガルの北のほうを転々とスケッチに周った時には、この絵の具と鉛筆だけで全部を仕上げました。墨1色とはまったく違う詩情を出せる不思議な色で、このスケッチ風の色を使えたのも有り難いことでした。
最近、特に児童図書が難しい時代だと言われますが、有川さんと僕のコラボレーションは今後も続きます(『コロボックル絵物語』が講談社から4月刊行)。有川さんほどサービス精神があって、読者を楽しませるコツ、泣かせるコツを心得た作家さんはなかなかいないでしょう。旅猫が読者の口コミで広まり、長く愛される絵本になれば本当に嬉しいです。
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