別冊文藝春秋

フィリピンで育てられた「新日系人」に着目した、日本人と国籍をめぐる物語

文: 橘 玲

橘玲「フィリピーノ」

橘 玲

 5年ほど前、月刊『文藝春秋』の取材でフィリピンの日本人向け介護施設を訪ねました。米軍基地の将校宿舎を改築したその施設を運営しているのは、日本の老人ホームにフィリピン人介護士を派遣している会社で、その現地責任者がIさんでした。

 マニラ郊外にあるIさんのオフィスで外国人看護師や介護士の受け入れ問題について話を聞いているとき、壁に奇妙なボードがかかっているのに気がついて、帰り際に「これは何ですか?」と訊いてみました。そのボードには、フィリピン人の名前の横に「戸籍」という欄があり、そこに「OK」とか「調査中」などの記号が並んでいたのです。

「ああ、これは日本で働きたい新日系人が国籍を取るためのものなんですよ」あっさりと、Iさんはいいました。

 フィリピンには、第二次世界大戦以前に日本人の父親とフィリピン人の母親のあいだに生まれ、敗戦によって取り残された多くの日系人がいます。その後、1980年代になるとフィリピンから“じゃぱゆきさん”と呼ばれる女性たちが大量に日本に出稼ぎに来るようになりました。彼女たちと日本人男性のあいだに生まれ、父親から認知も援助も受けられず、フィリピンで育てられた子どもたちを「新日系人」というのだそうです。

 私はそのときはじめてこの言葉を知ったのですが、それからずっと、「日本人」と「国籍」をめぐる物語を書いてみたいと思ってきました。

 ある日突然、戸籍に見知らぬ外国人の名前が載っていたら、あなたはどうしますか?

「別冊文藝春秋 電子版4号」より連載開始

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発売日:2015年10月20日

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