将棋界のヒール役?
将棋棋士の渡辺明さんは、現在、29歳。将棋界の7大タイトルのうち、竜王・棋王・王将の3冠を保持している。2004年の暮れに、弱冠20歳で棋界最高位の竜王位を獲得し、一躍スターダムにのし上がった。その後も毎年、防衛を重ね、昨年の秋に9連覇を果たしている。
渡辺さんは中学3年の15歳でプロ棋士になった。史上4番目の若さでデビューした超エリート棋士である。
しかし、先輩棋士の谷川浩司9段や羽生善治3冠といった、正真正銘の優等生タイプとは、どこか違う、「ヒール役」「敵役」のような存在。本人も本書の中で、「羽生さんのライバルキャラのような立ち位置」と述べている。
渡辺さんは、若手時代から自分の将棋に自信を持つことで、常に強気の発言が目立った。思ったことを遠慮なしに口にするのが持ち味。裏表のない素直な性格がファンの人気を集めた。
その一方で、「渡辺は生意気だ」と感じた先輩棋士もいたと聞く。
転機となった竜王位獲得
そんな渡辺さんに転機が訪れたのは、20歳のとき。前述の竜王位獲得だ。将棋界の顔になったことで、意識に変化が生じたのだという。「竜王」たる棋士として、人間として、どう振る舞うべきか。それまで単に強気なだけに聞こえた発言に、ずしりと重みが加わることに。
本書には、そんな渡辺さんの「竜王」としての成長過程が描かれている。
それだけではない。思わず笑ってしまうようなエピソードも。対局中に出されるケーキの食べ方ひとつにもポリシーをもっている、というのは、微笑ましいかぎりだ。