――そういう他作品からの影響はご自分で意識されますか?
伊坂 意識しないですね。ただ、それとはまったく別のことで気になることもよくあって。たとえば、去年、『デスノート』という漫画を、面白いなー、と思って読んでいたら、「あ、これも死神の話だ」とはっとしまして。この漫画から、死神の発想を得た、とか思われたら寂しいなあ、と思って(笑)、慌てて、初出みたいのを見てみたんですけど、とりあえず、ぼくのほうが書いたのは先だったので、ほっとしたり(笑)。死神なんて今まで山ほど書かれている題材だし、誰も、似ている、とか思わないんでしょうが、勝手に気になったりはします。
――――コーエン兄弟のテイストと伊坂さんの作風には一脈通じるところがありますね。
伊坂 何だろう。会話のばかばかしい感じのやり取りっていうのは、きっと影響受けているんじゃないかな。真面目な顔してばかばかしいことを言ったりするところ、いいですよねえ。『バートン・フィンク』なんか、けっこう深刻な感じで押してくるので、あまり好きではないんですけど。でも、ばかばかしいだけに流れちゃうと、それはそれでいやなんです。ばかばかしいことで、免罪符というかクオリティが低いことの言い訳になっちゃうっていうのは、ちょっとつらいんですよ。きちんとやるんだけど、かわいらしい部分も自然と出てしまうみたいなところが好きで。だから「コーエン兄弟っておしゃれでスノッブな感じがする」って批判されるのを読むと、「そうじゃない、ただ単にこの人たちの性格がこうなんじゃないか」と言いたいところもあるんですよね。それってぼくの小説に対する批判にもよくあることなんで、なんかシンパシーはあるな(笑)。「気取った感じがしてイヤだ」とか言われると、「いや、べつに気取ったわけじゃないんだ」みたいな。DVDのメイキングなんかみると、コーエン兄弟って、本当に笑いながら作っているんですよ。演出して、「ああ、おれたちの言っているようにやってるよ、あの役者」みたいな感じで。このひとたち、スタイリッシュとかそういうんじゃなくて、ただ単に楽しくやっているだけなんだなあ、みたいなのがすごい好きなんですよね。
――伊坂さんの執筆作業は、そんなふうに楽しんで書く面はありますか?
伊坂 ぼくは最近は苦しいですねえ。特にこの一、二ヶ月は辛かったんで、なんか思い出したくない感じです。本当は書きあがって一週間くらい何もしないで自分の作品を読みたいんですよね。そういうペースになれば嬉しいんですけど。忙しくならなければ、小説を書くのは好きです。
――もともと締め切りはあまり好きじゃないほう?
伊坂 今年の六月が久しぶりに、締め切りが一個もない月なんですよ。もう今からワクワクして。書き下ろしとか進められるじゃないですか。だからものすごく楽しみなんですよね。ただ、締め切りがなかったら、「死神」シリーズなんて一本も書かなかったろうし、よかった面も大きいんですけども。
――好きな虫、という質問も唐突ですが、お好きなんですよね、昆虫。
伊坂 答えを、いちばん熱く書いちゃいましたけど(笑)。触るのはやっぱり怖いんですよ。ただ、虫の不思議、とかそういうのが好きですね。あれだけ多様化していて、なんか謎の形してるじゃないですか。最近買った、『世界珍虫図鑑』を読んでいたら、面白いことが書いてあったんですよ。虫というのは、頭、胸、腹の三つに分かれていて、足が六本、羽があるっていうのが条件じゃないですか。ただ、そこで、デザイナーに「この条件で思いつく限りのデザインをしてみてくれ」って言っても、おそらくは実在する昆虫の奇抜さよりも奇抜なものは描けない、って。しかも必要に迫られて、そういう恰好になったわけじゃないですか。素晴らしい(笑)。
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伊坂幸太郎『死神の浮力』
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