- 2014.10.15
- インタビュー・対談
史上最強の完全合作! 阿部和重、伊坂幸太郎がそのすべてを語る
第1回 ふたりで村上春樹さんとたたかう
司会・構成:杉江 松恋
『キャプテンサンダーボルト』 (阿部和重 伊坂幸太郎 著)
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
2014年10月11日、「阿部和重と伊坂幸太郎による、合作書き下ろし長編が刊行される」というニュースが日本中を駆け巡った。小説の世界では珍しい完全な合作であるということに加え、著者として並んだふたりの名前に驚いた方も多いだろう。それほど接点があるとは思えなかったふたりの間に、一体何が起きたのか。『キャプテンサンダーボルト』が出来上がるまでのすべてが、ここで明かされる!
【注:こちらの記事は、単行本刊行時のインタビューです】
――今日は読者の代表として、ここに来ました。阿部さんと伊坂さんが何かをやられているらしい、ということだけはわかっているんですが、何が起きているのかはまったく知りません! いにしえの「電波少年」状態です(笑)。編集者の方にお聞きしたところによると、そもそも最初のきっかけというのは、お互いにご面識が全くない状態で、2010年3月24日に阿部さんの『ピストルズ』の3刷帯に伊坂さんが推薦文を寄稿されたことだったとか。
伊坂 以前から僕は阿部さんの小説が大好きで『ピストルズ』の連載中に読んでいたんですけど、正直、純文学の世界の人たちからすれば、「伊坂幸太郎」というのはミーハーな感じですし、関心ないだろうな、と思っていたんです。だから、「僕が、阿部さんの作品が好きだと言っても阿部さんは絶対嬉しくないし、言わないほうがいいよ」と編集者には言っていたんですけど。
阿部 そんなことないですよ(笑)。伊坂さんのことは当然同業者として存じ上げていて、お書きになっていることから、影響を受けているものや物語の発想の部分とかに勝手に共通性を感じていました。けれどもこちらこそ、僕の小説なんて読んでないだろうという気持ちでいたところ、自作のなかでも特に面倒くさい部類に入る『ピストルズ』をおもしろいと言ってくださった。いただいたご感想も、細部をひとつひとつ取り上げてそのおもしろさをご説明くださっていて、そこであらためて、考えや興味の面で自分と重なっているところを再確認することもできたし、編集者からは出てこない、実作者ならではのご指摘などもちょうだいして、非常に嬉しかったんです。それで結局「帯にコメントをいただけないでしょうか?」とお願いすることになりました。
――お会いになったのはそれがきっかけだったんですね。
阿部 『ピストルズ』も帯のコメントをいただいた効果が絶大にあって版を重ねましてですね。直接お礼を申し上げたかったので、当時の編集者にセッティングしてもらったんです。それが2010年の6月4日ですね。
伊坂 僕の帯コメントに力はなかったかと(笑)。でも、会うの、怖かったですよ。阿部さんは僕がデビューする前から、こういう言い方はたぶん阿部さん、苦笑されるでしょうけど、純文学界のエースというか、『インディヴィジュアル・プロジェクション』なんて、僕たちの世代の文学にとっては象徴みたいな感じじゃないですか。あそこから新しい、僕たちの世代の文学がはじまった、というか。だから、いつも常に先を行かれている気がしていて、憧れと同時に嫉妬もあって。『ニッポニアニッポン』が出たときも、僕は大江健三郎が好きなんですけど、大江さんが僕たちの世代だとしたら、『ニッポニアニッポン』のようになると思ったんです。やられた、というか、本当に悔しくて。だから目の上というか、雲の上のたんこぶのような人なんです(笑)。だからもしかするとお会いしたら、「君が書いてるのは、ちょっと駄目だよ」とか説教されるような気がして。
阿部 俺、どんなキャラなんですか(笑)。昭和の文士ですか。伊坂さんは今リップサービスしてくださったけど、僕は僕で大いなる嫉妬があったわけですよ。デビューは僕の方がやや早いといってもそんな差は一瞬で埋められてしまって、たちまち売れっ子になってしまった。デビュー当時も衝撃的で、僕が信頼している編集者から、伊坂幸太郎という凄い新人があらわれた、今年はみんな彼の小説を話題にしていると聞かされて、俄然興味を持ったことを覚えています。ジャンルはいちおうミステリーに分類されるけれども、いわゆる単なるエンタメではなく、クロスオーバーな作風であるということからも、新時代のはじまりを強く感じさせられました。そして伊坂さんは、もちろん内容も凄いけど、それと同時に、今更説明するまでもなく、売り上げも常に好成績を出している。これが僕の一番やりたいことなんです。まさに作家としては理想的な状況。だから僕も、「会った時に馬脚でも現したら突っついてやろうか」という気持ちはあったかもしれない(笑)。でも会ってみたら、最初からなんか普通に「ねー?」みたいな感じで。
伊坂 阿部さんって表面的な意味じゃなくて、すごく優しいんですよね。褒め合ってるとみんな白けそうですけど(笑)。でも、例えば、映画に関してすごい知識があるのにそれをひけらかすわけではなくて、お互いの共通点を見つけて「あの作品はすごい良いよね」と言ってくれたり。あとはやはり、阿部さんもすごく大江健三郎が好きなんだと分かって、本当に喋っていて楽しくて。
阿部 事前に何となく感じていたお互いの共通項みたいなものが、あれよあれよと言う間に全部確認されていきましたね。
伊坂 「お互いやっぱり冷戦時代の子どもですよね」みたいなこともあって。陰謀論が好きで、子供のころはノストラダムスの大予言を叩き込まれた世代じゃないですか(笑)。興味のあるものも似ていて。ああ、それでその時に、村上春樹さんの話になったんですよ。当時、『1Q84』が話題になっていて、僕も阿部さんも春樹さんの作品について詳しくないんですけれど、でも、暗殺者が出てくるらしい、とか聞くと、何となく僕たちもそれに応えなくてはいけないような気がしていて。
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