「時代SFの最高峰。歴史的傑作!」。帯の惹句に目を奪われる。乾緑郎さんの最新作は、縦横無尽に想像力が爆発する時代SF小説だ。
幕府精煉方手伝の釘宮久蔵が作り出した機巧人形(オートマタ)の伊武(いう゛)。彼女はまるで人間のように泣き笑い動く。久蔵が彼女を作り出した目的は何か? それと同時に、幕府貝太鼓役から精煉方への千五百両もの公金流用疑惑が噴出した。一方上方では、天帝家に伝わる「神代の神器」の秘密を巡る攻防が……。機巧人形を巡る不穏な動きはどこへ向かうのか? 次々と解き明かされる謎。それらは伊武の正体をも明らかにする。ドンデン返しの連続が、読者を魅了するはずだ。
「もともとは雑誌のSF特集の1編として書いたものなんです。近未来と現代のSFは、他の方がお書きになると聞き、じゃあ少し遡って時代小説でSFを書いてみようと。たぶん本格派の時代小説雑誌だったら、このアイディアはボツになったでしょう(笑)。自由にやらせてもらえたので、存分に想像を広げることができました」
13層の大楼閣には遊女が住み、機巧人形が人と同じように街を歩く。武士たちは藩の名誉を賭けて、蟋蟀を闘わせる闘蟋(とうしつ)に明け暮れる。馴染み深い時代小説の風景の中に奇想が入り混じり、摩訶不思議な世界が誕生した。
「この小説のガジェットは、自分の好きなもので埋め尽くしたんです。改めて読み直してみると、男の子の好きそうなものばかり。小学5年生になる息子に、今度の本は『忍者とロボットが戦う話』と教えています(笑)。道具立てだけでなく、アクションやミステリー要素も入れて、割と無邪気に楽しみながら書きました。途中から登場人物たちが勝手に動き出し、話はひとりでにできあがってくれて。僕は作者というよりも、原稿をまとめる役という感じでしたね」
この小説には、21世紀の現代人が直面する問題も盛り込まれている。「機巧人形に心はあるのか?」。作中で何度も繰り返される問いだ。
「ロボットと人間の差がなくなる世界は、そんなに遠くないと思うんです。そのときロボットに心はあるのか、という議論になるでしょうが、心の有無はどちらでもいいんじゃないかと(笑)。よく考えてみると、普段話をしている相手の心でさえも、どうなっているか永遠に理解できないじゃないですか。“心のありか”は、答えが出そうにないからかえって面白い。小説の中では自分なりの答えは提示してみましたが、そういう問題をこねくり回すのも小説を書く楽しみの1つですね」
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『機巧のイヴ』 (乾緑郎 著) 新潮社