- 2010.10.20
- 書評
ネットのなかに新たな“世論形成”の場を
文:佐々木 俊尚 (ITジャーナリスト)
『決闘 ネット「光の道」革命――孫 正義vs.佐々木俊尚』 (孫正義、佐々木俊尚 著)
ジャンル :
#政治・経済・ビジネス
そのようなインターネットの場がマスメディアから世論形成機能を奪い、今後の世論形成機能の一翼を担っていくようになるのではないだろうか?
私はそのように期待している。しかしそういう期待とは裏腹に、新聞やテレビのパワーは相変わらず強く、ネットの言論などいまでも蟷螂(とうろう)の斧(おの)でしかない。
そういう中で、ソフトバンクの孫正義さんとの間で論争が持ち上がった。きっかけは、私も委員を務めている総務省「グローバル時代におけるICT政策に関するタスクフォース」の席上で、孫さんが「光の道」論を展開されたことだった。「光の道」の詳細については是非本書をお読みいただければと思うけれども、私は孫さんのこの論の内容にはまっこうから反対だったので、CNET Japanというニュースサイトで連載している自分のブログ「ジャーナリストの視点」に、前後篇に分けて長い長い反論文を書いた。
これに孫さんが反応した。
ツイッター上で、
「佐々木さん、百年後の世の為(ため)に道路網を創った後藤新平の志とその後の結果をどう思いますか?」
「佐々木さん、日本の将来の為何を成すべきか一度語り合いましょうか」
と返してきたのである。私はこう返答した。
「オープンな場所でお願いします」
なぜ「オープンな場所で」と伝えたのか。それは先にも述べたように、日本ではネットを使った世論形成プロセスがまだ未成熟な段階だ。でも少しずつインターネットを使ったリアルな場でさまざまな議論を行っていけば、やがては世論形成につながる新たな場が生まれてくるのではないかという期待がずっと私にはあった。
そして孫さんと「光の道」についてオープンな場で議論できるのであれば、そういう世論形成プロセス、政策決定につながる萌芽(ほうが)ともなる場として機能する可能性があるんじゃないかと考えたからなのである。
実際、本書に収められたこの討論をきっかけにして、日本のIT戦略をこれからどう舵取りしていけばいいのかという議論はネットのあちこちで噴出し、それが霞ヶ関のタスクフォースでの議論にもかなり影響を与えている。
こうした議論が今後、いろんな場所で行われ、それがおおくの人に共有されるようになっていけば、たぶん日本の世論形成プロセスは変移し、マスメディア的な情緒ではなく、より政策論争に足場を置いた議論が行われるようになるのではないかと私は信じている。
-
『リーダーの言葉力』文藝春秋・編
ただいまこちらの本をプレゼントしております。奮ってご応募ください。
応募期間 2024/12/17~2024/12/24 賞品 『リーダーの言葉力』文藝春秋・編 5名様 ※プレゼントの応募には、本の話メールマガジンの登録が必要です。