大正十三年(一九二四年)、日本統治下の台湾・台南市で、台湾人実業家の父と日本人の母とのあいだに生まれる。台北高校では李登輝と同窓。昭和十七年(一九四二年)から内地に。根っからの文学青年だったが、翌年、東京大学の経済学部に進む。植民地生まれの自分が文学で生計を立てる自信がなかったから、と語っている。
しかし、定期試験で満州国の政策を経済学的に批判して不穏分子と睨まれたり、憲兵隊にスパイ容疑で拘留されたことも。終戦により台湾に帰り、さまざまな事業を手掛けるも、こんどは台湾独立運動に関ったとして国民党政府に追われ、香港に亡命。物資欠乏の日本に香港から郵便小包で物資を送る事業で成功を収めた。
この頃から、同じ亡命者、密入国者たちの苦闘を描いた小説が評価されるようになり、昭和三十年に「香港」で第三十四回直木賞を受賞する。
かつての文学青年の夢が叶ったわけだが、以後、実業家を続けながら、自らの経験を踏まえた実用ビジネス書や株投資の指南書を数多く出版し、人気を得る。文学界からは白眼視されたが、国と国を転々とし波乱万丈の人生で、お金の大切さを痛感していた邱永漢ならではの選択である。
写真は昭和三十四年の「別册文藝春秋」、「絵をかく作家たち」での一枚。なかなかの作品も一緒に掲載されている。
芸術家の心を終生持ち続けた「外国人初の直木賞作家」は、昭和五十五年に日本国籍を取得、再び日本人となった。
台湾、香港、中国とさまざまに移り住んだ人生は、平成二十四年(二〇一二)年五月十六日、八十八歳、東京で幕を閉じた。
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