――続く「雛人形を笑え」は若く野心的な漫才師たちの話です。火村シリーズの1作目『46番目の密室』の文庫解説の中で、綾辻行人さんが有栖川作品の魅力の1つとして「気の利いた、決して押しつけがましくないペダントリー」を挙げておられます。本作で披露される漫才の蘊蓄も面白かったです。アリスは鋭い鑑賞眼を持っていますね。
有栖川 アリスが鋭いことを言っているとしたら、それは漫才に詳しいからではなく、漫才と小説に似たところがあるからでしょうね。どちらもテンポが非常に大切ですし。
――作中で漫才師志望だった女性が人を笑わせるのに疲れてしまった、と漏らすのを受けてアリスが「人を笑わせるという芸は、私が想像していたよりも激しく人間の精神を消耗させるのかもしれない」という感慨を抱きます。読者を驚かせる、推理作家に疲れはあるのでしょうか。
有栖川 推理作家は消耗しますね。人を楽しませるには、エネルギーが要ります。またミステリーは同じトリックを2回は使えない。
――「探偵、青の時代」にはファン垂涎の、若き日の火村が登場します。
有栖川 車に関するロジックを思い付いて、これで短編ひとつ書けるぞ、と思ったのですけれど、いかにも地味な話になりそうだったので、大学生の火村を出したんです。読者に楽しんでもらうために必死です(笑)。
――表題作「菩提樹荘の殺人」では50代の有名人が殺されます。
有栖川 本の最後を飾る4本目には中学生でも出さなければいけないのかなあ、と考えているうちに、今度は、若くないけれども若くあろうとしている人物を出して「若い」とはどういうことなんだ、というのを描けばいいんじゃないか、と思い至りました。
――そして若き日のアリスのエピソードも披露されます。
有栖川 彼が小説を書き始めたきっかけというのは、これまで2度ほど言及したことはあるのですが、もう少し詳しく書きました。「ぼだい樹荘殺人事件」は私が高校時代に書いて「幻影城」という雑誌に応募した作品。一所懸命に小説を書いた10代の自分と作中のアリスがつながったんです。
――作品のタイトルはすべてご自分で決められるのですか。
有栖川 はい。いいタイトルをつけることができると、読者に「読み終わったらタイトルをもう1度見てください」と言えますね。
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