これまで数々の近未来小説の傑作を生んできた作家・水木楊氏が最新作『謀略海峡』で描くのは、まさにこのヒューミントの世界だ。
舞台は東アジアの二大火薬庫の一つ、台湾海峡。時代は、〈中国が空母を進水させ〉、バシー海峡では、〈中国海軍の艦船が日本の貨物船を臨検〉するほどに中国がプレゼンスを高めている二〇××年。遥か西方ではイランが〈イスラエルに核爆弾をぶち込むことが可能になった〉ともいう。力の衝突を予感させる緊張の糸がきりきりと音を立てて張りつめて行くのが伝わってくる。 そして日本の情報機関、「Be-Nation’s Forum」(通称BNF)に籍を置く主人公・東(あずま)大介に謎のメッセージを残して一人の台湾人が自殺する。メッセージの解読の過程で浮かび上がってきたのは、中国が台湾に何かを仕掛けようとしているというアラートだった。
メッセージに隠されたもう一つの意図をさぐるべく、元航空自衛隊パイロットの経歴を持つ東は単身台湾に乗り込む。その台湾で東は、台湾国家安全部に所属する恋人・ジャジャからUSBメモリーを託される。そこにあったのは、中台の急接近を意味する「国共合作」の企みだった。そして、さらにその裏側には中国の大きな陰謀が隠されていたのだ。
その展開はまるで、濃い霧に包まれた静かな朝の港。いつもと変わらない静かな目覚め。だが霧が晴れると同時に、突然、目の前に巨大な戦艦が何隻も姿を現すような驚きを読者にもたらす。そしてストーリーはぐいぐい加速しながらクライマックスへと誘う……。
中台激突は魅力的なテーマであるが、同時に書こうとする者にとっては、基本構造を正確に理解するだけでも大きなストレスとなるテーマである。だが、水木氏は見事にこのテーマをねじ伏せてしまった。
本書を読んで、いつのまにか中台衝突を遠いテーマのように感じていた自分に気づいて驚いた。ここ数年の中台接近がそうさせたのかもしれない。だが、考えてみれば国共の合従連衡は、常に日本という要素によって起きてきたものだ。また中国空軍も台湾の軍隊も、その草創期を支えたのはともに旧日本軍の生残り将校たちなのだ。
水木氏が描いたように、日本が傍観者であることを許さないのかもしれない。
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