──楊逸(ヤンイー)さんのデビュー作に当たる本作は、第一〇五回文學界新人賞を受賞し、芥川賞候補にもなりました。小説を書くにあたり、中国と日本の関係をテーマに選んだ理由をお聞かせ下さい。
楊 いろんな方から「どうして日本語で書くの?」と訊かれるのですが、これは日本人に読んでほしいからなんです。私がいちばんよく知っているのは中国人の世界ですが、ただ中国のことを書いていては日本の方々に興味をもってもらえない。そこで、日本人とも関わりのある中国の話を書こうと決めたんです。面白くて、可笑(おか)しくて、かつ身近なことをテーマにしようと思い、中国人と日本人のお見合い結婚を書くことにしました。
──中国人にとって、日本とはどういう国なのでしょうか。
楊 戦後しばらく、日本を訪れた中国人は留学生が多かったんです。日本の優れた電化製品や、流行(はや)っているドラマの話などを帰国した彼らから聞き「日本の暮らしはそんな風なのか、日本に行けばお金持ちになれるかもしれない」と、幻想を抱いた中国人はきっと多かったと思います。そこで、小説ではこの幻想を逆手にとって、日本人と中国人の国際結婚の仲介をして儲けようと目論むワンちゃんを登場させました。
──実際、このような国際結婚が増えた時期がありました。
楊 中国人からすると、日本の農村というものがイメージできないんですね。しかも日本人の農家の方がスーツを着て小奇麗な姿で登場するものだから、普段から身なりの汚い中国人はビックリしてしまうわけです。スーツを着た農民なんて身近にいないんですよ。そのうえ「自家用車を持っている」「自分の家がある」「山を所有している」なんて、信じられない世界なんです。なんてすごいお金持ちなんだろうと中国人は思ってしまうんですね。
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