──こうした見合いではすぐに結婚するのでしょうか。
楊 ええ。ルックスなどが好きでなくとも。だいたい日本人男性が一週間のスケジュールで訪中し、通訳つきで交流します。そして二度目には入籍の手続きです(笑)。運よくビザが発給された場合、中国人女性が日本へやってくるんです。
──『ワンちゃん』の内容は経験に基づくものですか。
楊 いえいえ、ストーリーに中国人の文化や価値観を入れようとした結果、日本人男性と中国人女性というテーマを思いついただけで、ストーリー展開は想像の産物です。
──しかし中国の話だけに留まらず、本作は文化や価値観の相違や、そこから生じる問題についても描いています。
楊 例えば中国の農村では、女性がバツイチなんてとんでもないことなんですね。日本のように再婚すればいいなんて空気は全くなく、周囲からも「あれはバツイチだ」と蔑(さげす)んだ目で見られてしまいます。そうすると、この価値観から脱するには、逃げ出すしかないんですね。中国国内の移動が不自由ななか、日本へお嫁にいくことも新たな不幸になるかもしれない。しかしワンちゃんは、固定された価値観や文化から脱する手助けになればと、使命感に燃えるわけです。いくら政府が「改革開放」といったところで国民は半信半疑ですから、ワンちゃんのような話は、ある種の政治的な貧しさゆえなのだとも言えます。
──ワンちゃんの行動もまた、悲劇的と言えるわけですね。
楊 ええ、これは現実逃避でもあります。日本人男性と結婚すればこの女性は救われる、とワンちゃんは思い込んで行動しているわけです。ところが実際には、かつて日本の農村で問題になったように、多くの中国人妻は行方不明に、つまり逃げ出してしまう。これは悲劇的な悪循環なんですね。
──このような価値観や文化の差、そしてそこから生まれる問題について、楊さんはどのようにお考えですか。
楊 良い循環なら小説は生まれない、と思います。価値観や文化が異なるからこそ、問題が発生し、悪循環にもなりますが、だからこそ小説が生まれるし、それが人間なのだと思います。私はこういった「ズレ」こそが大切なのだと感じています。
──最後に、読者の方々に一言お願いします。
楊 『ワンちゃん』は私の出発点といえる作品、デビュー作であり、こなれていないところも多いと思います。ただ、本作には訴えたいこと、私なりの哲学が織り込んであります。ぜひ読んでいただいて、それぞれの人間模様に興味をもってもらえたらいいですね。また、このような文化や価値観の問題について考えるキッカケとなればうれしいです。楽しみながら人生について考えてほしいですね。
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