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太地喜和子、満開の華の盛りに散る

太地喜和子、満開の華の盛りに散る

文・写真:「文藝春秋」写真資料部

 女優・太地喜和子が舞台「唐人お吉ものがたり」の巡業先だった静岡県伊東市で、乗っていた車が海に転落し、四十八歳の若さで死亡したのは、平成四年(一九九二年)十月十三日未明のことだった。

 文学座の先輩、北村和夫は悼む。

〈彼女は好きな芝居をやって、好きな酒を飲んで、いい男や女やオカマさんたちにまで囲まれて一生を過ごしました。こんな幸せな役者はそんじょそこらにはいませんよ。杉村(春子)さんが劇団葬の時に言ったように、華の盛りに、満開の中で彼女は散ったんです。彼女の人生は充実していたと思う。少なくとも僕はそう思うことにしています〉(「文藝春秋」平成四年十二月号)

 太地喜和子は、昭和十八年(一九四三年)、東京都中野区に生まれた。東映ニューフェイスに合格後、「欲望という名の電車」の杉村春子の演技に衝撃を受け、昭和四十二年、文学座に入団。「飢餓海峡」の娼婦、「ハムレット」のオフィーリア、「近松心中物語」の遊女・梅川など、さまざまな役柄を好演し、将来を嘱望された。写真は、「文藝春秋」昭和五十四年八月号「日本の顔」に登場したときのもの。

 豪快な酒と奔放な男性関係でも知られる。ロマンスが取り沙汰されたのは、二十歳年上の三國連太郎、十二歳年下の中村勘九郎(のちの十八代目勘三郎)、七代目尾上菊五郎、峰岸徹など、枚挙に暇がない。

 杉村春子の後継者たることは衆目の一致するところだったが、水が苦手だった彼女が、海で落命したのは不思議な運命というよりない。戒名は、紅蓮院喜和静華大姉。

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