和光、三越、プランタン、博品館、歌舞伎座……。皆さんは東京の銀座と聞いて、何を思い浮かべるだろうか。
この本は、銀座を舞台にしたショートストーリーばかりをまとめた1冊。どれもフィクションだが、あちこちに実在の場所、ときには実在の人物まで登場する。
ふらっと立ち寄った銀座8丁目のカウンターバーでは、シュープリームスのヒットナンバーがかかっていた。男は、1人で飲んでいた60代くらいの女性と話すうちに、もう40数年前、新宿の行きつけのゴーゴー喫茶で会った女かもしれないと思い始める――。
当時、銀座の生まれだと話したその女は、好きだった相手を交通事故で亡くしたばかり。男も彼女にフラれた直後だった。チークを踊り、朝まで話した、ただそれだけの関係だったが――。(「帽子の女」より)
こんな物語が全部で33本、収録されている。
「1話につき原稿の分量がだいたい11枚半くらいと短いのですが、筋を追うだけでなく、なるべく描写をしたいというのがありました。銀座が舞台であれば、何を描いてもよかったのだけど、なるべく嫌なことが起きずにハートウォーミングな人間関係を書きたいと思い、そうなると夫婦とか友達、元の恋人など自然と組み合わせが決まってくる。これを手を変え品を変えやってみた。あるときは幽霊モノを入れてみたり、猫を擬人化してみたり」
これらはすべて「銀座百点」に掲載されたもの。「銀座百点」といえば、昭和30年創刊の老舗のタウン誌。創刊時、当時の重役が指南をするなど文藝春秋とも関わりが深く、向田邦子の『父の詫び状』なども、かつてこの冊子での連載から生まれている。
「『銀座百点』というのは銀座の図書館みたいなもの。だからこそ、その編集部の人でも知らないことを書いてやろうと思った。対抗心じゃなくて、そうやって楽しんだんだね。ポチ袋屋とか活版印刷屋とか、自分1人での飛び込み取材も多かったけど、元々は商人の街だし親切な人が多かったな」
印象に残ったのは、60年以上もの間、銀座で野菜などの行商をしている石山文子さんだという。実際に足を運び、馴染みの客とのやり取りなどを見て、また構想がふくらんだそうだ。
「自分は高校から東京に出てきた。表通りを歩き、どこかで映画を観たのが銀座の初体験。都電もまだ走っていて、建物の多い街に飲まれていたのを憶えています。最初から都会に住んで銀座に親しんだのより、田舎者だったからこれが書けたんじゃないかな」
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『赤毛のアン論』松本侑子・著
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