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生命はどこからやって来るのか

生命はどこからやって来るのか

「本の話」編集部

『ドンナ・マサヨの悪魔』 (村田喜代子 著)

出典 : #本の話
ジャンル : #小説

──聞いたこともないような話ばかりでびっくりします。

村田  ほんとうにいまの出産事情を聞けば聞くほど、昔とは様変わりしているんです。ところがそうすると、私たちおばあさん世代は口出しができない。

  じつは哺乳類では雌は産む性であって、閉経になる前にみんな役目を果して死んでいくわけです。ところが人類にだけ産めなくなった雌である「おばあさん」がなぜか存在する。では彼女たちの役割はというと、娘たちが産み育てる手助けをすることだったわけです。アフリカに生まれた人類が地球全体に広がりここまで進化したのは、彼女たち「おばあさん」の力があったからだという仮説があります。ところがいまやおばあさんが必要とされなくなっている。またおばあさんのほうでも旅行やお稽古事に忙しくて、子育てをやりたがらない人が増えている。いったい人類はどうなるのか。私は未曾有(みぞう)の変革期に来ているよう思えてなりません。

変わる出産事情

──『ドンナ・マサヨの悪魔』はその「おばあさん」であるマサヨの視点から書かれていますね。

村田  直接、自分が産むわけではないマサヨの立場から書くことで、文化人類学的な一歩ひいたシニカルな視点で書くことができるようになりました。子供を産む当人の視点で書くと、どうしても精神論やエロスの問題が主題に入ってきますから。

──そしてもう一つ、赤ん坊はどこから生まれてくるのかというのが、この小説の最大のテーマになっています。

村田  私が子供を産んだときは、まだ若かったので、私が産むんだから私がつくったんだと単純にそう思っていました。しかし年をとって否応なく死を意識せざるを得なくなった最近は意識が変わってきました。近い将来、自分は必ずむこうの世界へ行くわけです。そして赤ん坊はむこうの世界からこちらの世界へやってくるものです。ということは、単純に私のほうが年齢がうえだとも、言い切れないのではないかと思うようになりました。 

海から生命が生まれる

──どこか生命がやってくる場所があるとお考えになっているわけですね。

村田  これは昔から私の実感としてあるのですが、生命とは宇宙や地球といった大きなものと一体になっていて、そこから活性化することによって生まれ、死とは非活性化することじゃないかと思うんです。エネルギー不滅の法則というのがあるのなら、人間の生命という一番大きなエネルギーが簡単に消えてしまうわけがない。生まれてきたものが死んで、また生まれてくるというのはとても自然なことのように思えます。

  イメージとしては、混沌とした大きな生命の海か池のようなものがあって、波の一つ一つが命となって生まれてくるという感じですね。

ドンナ・マサヨの悪魔
村田 喜代子・著

定価:1600円(税込)

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