──いま地球上では爆発的に人口が増えていますが、なにか原因があるのでしょうか。
村田 例えば洗面器を大きく揺らすと中で大きく波が立つでしょう。命の海が大きく揺れて大量の飛沫がとびちっているのではないでしょうか。命が増えたり減ったりしているということではないように思います。命は器のなかで、条件が揃えばいつでも生まれてくることができる状態にあるんじゃないか……。作中に「イルマーレ(イタリア語で海の意)」という言葉を使ったのはそういうわけです。
──お話をうかがっていると、仏教的なイメージが強いように思われます。
村田 確かにそうですね。それに仏教は宗教というより哲学に近い気がします。キリスト教のように、人間は神が創ったもので、動物とは違うといった考え方だとそこで終わってしまうようで……。
──でもマサヨの娘の夫はイタリア人ですね。
村田 確かにキリスト教、それもカトリックの国なんですけど、イタリアはちょっと特殊だと思います。世界中で一番、母親と息子の結びつきが強い国ですから。イタリアではマリア信仰がとても強いんです。でもマリアなんて最初は神でもなんでもなかったのが、キリストの母として神格化したのはイタリア人です。なにかちょっと土俗的というか原初的な匂いがして興味がありました。
脳か心臓か?
──いま脳科学の研究が進んできて、脳か心臓かというのが生命分野ではとても大きな議論になっていますね。
村田 昔は心といえば心臓のことだったんですが、最近は脳にとってかわられたようですね。でも嬉しいときって心があったかくなるでしょう。頭があったかくなるわけじゃない。悲しいときは胸が張り裂けそうになりますし。私は身体がとても大事なものだと思っています。
──確かに私たちは脳の記憶だけでは考えられないようなものを持っていたりします。
村田 ヘビが怖いと思うのは、大昔からの爬虫類の恐怖の記憶を受け継いでいるんだとか。解剖学者の三木成夫はそれを細胞が記憶していると書いています。例えば私は恐竜が大好きなんですが、その理由をずっと考えていて、たぶん懐かしさを感じるからではないかと思うようになりました。
『ドンナ・マサヨの悪魔』を書いたことにより、身体というものをより強く意識するようになりました。それは刊行順番が逆になりましたが、二月に出た『あなたと共に逝きましょう』に引き継がれて、身体論・心臓論を突き詰めてみました。これら二つの作品がたがいに影響しあってそれぞれのテーマを深めたとも言えます。
『ドンナ・マサヨの悪魔』では、人類学的な興味と小説の筋立てをどう融合させていくかという作業がとても楽しかったですね。小説でどこまで科学的なことを扱うかはとても難しくて一歩間違うとホラーになってしまうのですが、縦横無尽に想像力を駆使することができたと思っています。
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