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「西成」も「飛鳥」も<br />ともに「故郷」だった黒岩重吾

「西成」も「飛鳥」も
ともに「故郷」だった黒岩重吾

文・写真:「文藝春秋」写真資料部

 大正十三年(一九二四年)、大阪市に生まれた黒岩重吾は、旧制宇陀中学(奈良県)から同志社大学に進み、そこで学徒出陣を受け、北満に渡る。敗戦で逃避行の末、朝鮮から内地に帰還し、闇ブローカー業ののち証券会社に就職。「北満病棟記」が記録文学コンクールに入選し、執筆活動を始めるが、株暴落により破産、病気入院も重なり、かつての釜ケ崎のドヤ街で暮らすようになる。情報屋、占い師、キャバレーの呼びこみなど、さまざまな職業を体験。しかし、この経験を糧とした小説を発表し次第に評価され、昭和三十六年(一九六一年)、釜ケ崎を舞台にした「背徳のメス」で直木賞を受賞する。

 金銭や権力に群がる人間を描く「西成モノ」の作者として知られた人気作家が、昭和五十年頃から次第に、古代史を正面から扱う作品に取り組むようになる。まったく異質な世界に、と思われがちだが、中学時代に軍事教練で飛鳥の古墳の上を駆け回った氏からいえば、同じく「生まれ育った地」を舞台にした人間ドラマなのだ。

 昭和五十五年に「天の川の太陽」で吉川英治文学賞。古代史文学の功績で、平成三年(一九九一年)に紫綬褒章、平成四年に菊池寛賞を受ける。

 写真は平成十三年、仁徳天皇陵(大山古墳)のそばを散策したときのもの。古墳もドヤ街も、ともに「故郷・大阪」の風景の一部なのだ。

 平成十五年、七十九歳で没する。

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