人間誰しも、自分の恥を晒したくはない。恥について語るときには、都合良く味付けをして、かっこよくまとめたい。それが人情というものです。
私が本書を読んだのは、社会人になったばかりのころでした。青春期特有のかっこ悪さを、ここまで衒(てら)いなく書けるものかと驚いたのを、よく覚えています。
作中に大学受験の願書を出しにいく場面があります。漫画家志望のショージ君は、文学部の美術史科を受けるつもりで願書の受付窓口に並んでいた。ところが隣りの窓口が露文科で、女のコとつき合うとき、美術史より露文のほうがモテるのではなかろうかと迷いだし、「逆上して」露文科を受験してしまう。人生の重大事をそんな理由で決めてしまうことの、馬鹿馬鹿しさと面白さ。
その後、私も作家になりましたが、この本から受けた影響のせいか、深刻なことほどユーモラスに書く、というのが信条になっています。思うに東海林さんは、どこかの時点で自意識を飼い慣らせるようになり、この文体をものしたのではないでしょうか。誰にでも書けるようで、誰にも書けない達意の文章。私だけでなく、東海林さんから影響を受けた書き手は、大勢いるはずです。(談)
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『リーダーの言葉力』文藝春秋・編
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