もちろん悪玉がいれば善玉もいる。白の側につく者たちは、これまた過去のキング作品で見られた傑物にも比肩する魅力的なキャラクター揃いである。そして白黒とりまぜた登場人物各々の立ち位置が定まる頃には、あのキング最大最長の傑作『ザ・スタンド』を彷彿させる善悪の闘争の図式が浮かび上がってくる。
だがしかし、黙示録を地でゆく『ザ・スタンド』のような象徴性は本書にはない。よく似た図式と構成をとりながら、雄弁なまでに神話的であったあの作品と本書とは、リアリズムという点において一線を画する。ここに大きな意図があるように思われてならない。
抽象的な悪などではなく、現在世界規模で見られる自然、人為を問わない災害、災厄。本書はそれらに対するキングなりの一つの回答と見えてならないのだ。主要な人物の一人にジャーナリストを起用し、また主人公に外から来た者を置いて客観視の補強を試みたのも必然なのではないか。この物語において象徴の力を利用する必要も、神話の鎧を身に着ける必要も無いと判断したキングは、事態の推移と人間の行う選択や決断を、冷徹な視線でもって追ってゆく。
プレゼント
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『赤毛のアン論』松本侑子・著
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