書評

単なる善悪の闘争を超えて

文: coco (漫画家)

『アンダー・ザ・ドーム』上下 (スティーヴン・キング 著/白石朗 訳)

 この辺りの細密画のような描写はキング読者にはすでに馴染みのものだが、こういった群像劇となると『ニードフル・シングス』以来か。しかも執筆時はアクセル“ベタ踏み”を心がけたというキングの言葉どおり、その語りはいつにも増して粘り強くトルクフル。ブレーキ不要の勢いで大排気量にまかせて突進してゆく。もちろんそこにはベテランらしい余裕からくる変幻自在の緩急やウィットも存在するが、それは読者サービスやちょっとした余興のようなもの。住民らの複雑な感情や思惑をフロントとタイヤに絡みつかせ、巨大なドームという空間を高らかな哄笑(こうしょう)のごときホーンで満たし、一気呵成(いっきかせい)に突き進むのが本書の主軸だ。

 開幕直後にドームという物語の核を出現させ、日常を積み重ねることなく登場人物と読者をいきなり非日常に突き落とすスタイルは、近年の『セル』や『ドリームキャッチャー』でも見られたもの。キング流ホラーの常套ともいえる、日常描写の積み重ねとその果てに出現する崩壊といった手法とは逆のものだが、元々外界と隔絶されたようなものである小さなコミュニティは、ドームという巨大な謎を前にしてもすぐに破綻を来たすことはない。なぜならここは、キングがこれまで幾度となく舞台として描いてきたものと同様の小さな田舎町である。登場人物のほとんどは、ここで生まれ、ここで働き、ここで子を育て、ここで朽ちてゆく。たとえドームがなくとも、目に見えない縛りによって町を出てゆけない者たちばかりなのである。つまり町は彼らの棺(ひつぎ)も同然であり、そこでの倦んだ生活とは緩慢な死に他ならない。棺がドームという目に見える形を取ろうとも、それは住民らにとってはどこか諦念めいた理解をもって受け入れることができるもののようにも思えるのだ。

 しかしドームの出現を境に、住民の残りの生は一気に加速する。さながら〈早すぎた埋葬〉の様相を呈して(終盤の展開、そしてとある悪漢の最期となる舞台装置は、まさにそれを裏付ける)。

 一人また一人と思いも寄らぬ事態によって住民は命を落としてゆくが、奈落へと突き落とされる彼らの背には必ず、ある町の有力者の手が添えられている。

 ビッグ・ジム・レニー。中古車販売店店主であり、第二町政委員も兼ねる大物。キング作品における個性ある悪漢の中でも、とりわけ印象に残るであろう人物である。しかもあろうことか、この男には、将来のキング・オブ・下衆(げす)を約束された息子までいるのである。町の進むべき途(みち)は、この二人の悪意によって決定づけられる。

アンダー・ザ・ドーム 上
スティーヴン・キング・著 , 白石 朗・訳

定価:2900円(税込) 発売日:2011年04月28日

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アンダー・ザ・ドーム 下
スティーヴン・キング・著 , 白石 朗・訳

定価:2900円(税込) 発売日:2011年04月28日

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