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インターネットは厄介な隣国を変えるのか?

インターネットは厄介な隣国を変えるのか?

文:高島 俊男

『中国・電脳大国の嘘 「ネット世論」に騙されてはいけない』 (安田峰俊 著)

出典 : #文藝春秋

文藝春秋 1680円

 いま、中国のインターネット人口は五億人に達する、と言われる。

 ネットではしばしば、従来の中国の官製報道とは異なる、中国のふつうの人々の、生のすなおな声、息吹きを感じることができる。

 そこから、ここ一両年、日本のメディアでは、「ネット世論が中国を変える」という見かたが、よく示される。

 しかしほんとうにそうだろうか。そう見ていいのだろうか。

 この本はその問題を、実証的に考察したものである。著者は数年前から中国のネット掲示板にあらわれる言論を日本に紹介し、また実際に中国の各地へ行って、それら発信者と直接交流している元気のいい青年。この本は、題は大向う受けを狙ったやや浅薄な感じだが、内容はまことにしっかりした、誠実なものである。

 中国のネット人口は五億だが、真に自由に国外の情報や考えかたに触れることのできる「ツイッター」の利用者は十万人程度、ネットユーザーの〇・〇二%ほどにすぎない。

 著者は、これらの人たちに会い、話を聞いている。みな若い、高学歴で聡明な、したがって多くは都会の恵まれた企業に在籍する、知的なエリートである。当然みな、体制に対して冷淡、客観的、時には批判的である。

 しかし、獄中でノーベル賞をもらった劉暁波のような、実践的反体制知識人とはまったくちがう。言わばひよわな良心的知識人であり、体制を変えてゆくようなたくましさ、パワーは持ちあわせない。将来の中国が、彼らのような価値観を持つ人たちが主役の国になれば……とは誰しも思うが、「そんな素晴らしい未来はおそらくやって来ないだろう」と著者は言う。

 昔も今も中国は、圧倒的多数の民衆と、強い為政者と、知的で上品だが無力な知識人から成る国である。いま新しいネット時代になって、ネット利用者の一部から、為政者に対する「不平不満」も聞かれるようになった。

 しかしその不平不満は、体制そのものにはめったにむかわないし、本物の反体制知識人はあまりにも少数、弱体である。

 日本人はこれまで、中国に一方的な期待や願望を寄せ、それが冷酷な現実によって裏切られると、一気に軽蔑に傾く、という歴史をくり返してきた。

 もう、その「カン違いの歴史」から脱出しよう。中国とつき合ってゆく心構えを著者は三点にまとめる。

(1) 中国に日本人としての理想を投影して、相手側の動向に一喜一憂しない。

 たとえば「反日」熱を気にしない。中国人は昔から「乗風転舵」、お上の風向きに合わせてふるまうことによって生き延びて来た人たちなのだ。

(2) 中国や中国人を必要以上に蔑視し、思考を停止しない。

 個人的に見れば、中国には優秀な人、立派な人が多いことを忘れてはならない。

(3) 中国を、日本の価値観の延長線上にある国ではなく「ただの外国」だと考える。

 一々その通りである。よくこれだけきちんと、過不足なくまとめてくださった。近ごろ「中国本」のヒットである。

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