「俳優・亀岡拓次シリーズ」の二作目。前作より三つ年をとった亀岡の、飄々とした変わらぬマイペースが味わい深い。
――なぜ俳優を主人公にしようと思ったんですか。
「ぼく自身、あちこち旅するのが好きで、自分が行った場所のことを小説に書いてほしいと依頼されたんです。どう書こうか考えたとき頭に浮かんだのが殿山泰司さんの旅の文章で、『俳優がいいんじゃないか』と思いつきました」
「鉄割アルバトロスケット」(パフォーミング集団)を主宰する戌井さんは、映画界の友人・知人も多い。友達の俳優や、「鉄割」に参加もしている漫画家の東陽片岡さん、さらに戌井さん自身の経験をミックスして、「俳優・亀岡」像をつくりあげていった。
いちばん影響を受けたのは、一回り以上年上の東陽さんだという。
「オートバイに乗ってどこかへ行ったり、近所のスナックで飲んでたり、というのは東陽さんの影響。もともと僕が東陽さんの漫画のファンで、『鉄割』の公演に出てもらうようになり、地方にも一緒に行くようになって。ものすごくブレないところが『すごいなー』と思います」
アパート暮らしで独身の亀岡は、寡黙で、間違っても後輩に演技論をぶったりしない。ドラマを演じながらもドラマティックなところは皆無で、そんな「オーラのなさ」が特徴となり、乞われて巨匠の映画に出演することもある。
いろんな地方の現場に出向いて淡々と俳優という仕事をこなす亀岡だが、本作『のろい男』では、スタッフの理不尽に珍しく怒りを爆発させる場面が出てくる。
「僕が映画に呼ばれたときの実体験です。腹を立てながらも、『これ、亀岡に使えるじゃん!』って思ってました」
旅をすると、自分が亀岡だったら、という目でその土地を歩いてみたりした。
亀岡が出演する映画のあらすじは、現実の映画を想起させるものもありつつ、すべて戌井さんのオリジナルである。
「あそこは、書いててすごく楽しかったですね。すさまじくいい加減で、もう、めちゃくちゃにやってやろう、って」
小説の中に大小さまざまな映画を抱えこんだ本作が、新鋭、横浜聡子監督によって映画化され、一月末から公開予定である。原作者もゲスト出演している。
「一作目の文庫解説を書いてくださった山﨑努さんと一緒の現場で、『おい原作!』とか呼ばれて。『おとなしくさせといてください』って身を縮めてました(笑)」