書評

忍者小説でも“万城目ワールド”健在!

文: 細谷 正充

『とっぴんぱらりの風太郎』 (万城目学 著)

まきめまなぶ/1976年大阪府生まれ。2006年第4回ボイルドエッグズ新人賞を受賞した『鴨川ホルモー』でデビュー。長編小説が次々と映像化され話題となる。代表作に『鹿男あをによし』『プリンセス・トヨトミ』『偉大なる、しゅららぼん』など。 文藝春秋 1900円+税

『シュンスケ!』の門井慶喜、『喧嘩猿』の木内一裕、『光秀の定理』の垣根涼介と、なぜか今年は、他ジャンルで活躍している作家の初めての歴史・時代小説が相次いで上梓されている。そこに万城目学も加わることになった。本書は作者初の時代小説だ。とはいえ“万城目ワールド”は、ここでも全開。史実の枠組みを守りながら、破天荒なストーリーと、魅力的な人物を躍動させ、今までにない時代小説を創り上げたのである。

 時は戦国末期。主人公の風太郎は、若き伊賀忍者である。だが、腕試しの城潜入で張り切りすぎて、かえって顰蹙(ひんしゅく)を買ってしまい、放逐されてしまう。忍者というアイデンティティを失い、京で無目的に生きる風太郎。ところがある日、腐れ縁の忍者・黒弓(くろゆみ)から、ひょうたんを届けて欲しいという依頼を受けたことから、風向きが変わる。ひょうたんの中に居る、因心居士という奇怪な人物に、見込まれてしまったのだ。どうやら因心居士は、稀代の幻術師として知られた果心居士と、深い関係にあるらしい。

 これが縁になり、高台院の屋敷にも出入りした風太郎は、黒弓や、かつての修業仲間である常世(とこよ)・蝉左右衛門(せみざえもん)・百市(ももいち)たちと共に、豊臣方と徳川方の戦いに、巻き込まれていくのだった。

 幼い頃から過酷な忍者修業をしていた風太郎は、忍者以外の生き方が分からない。支配者から放逐されると、迷走した日々を送る。そんな彼が、奇想天外な存在との出会いや、謀略の渦に翻弄されるうちに、しだいに自分が何者であり、何がやりたいのかを理解していく。起伏に富んだストーリーを通じて、どこかお人好しの忍者の、自己を確立するまでの経緯が、本書の読みどころになっているのである。

 その一方で、激しいアクションも見逃せない。いかにも作者らしい、飄々(ひょうひょう)とした語り口も、戦いになれば一変。随所に派手かつ非情な殺し合いを挿入しながら、燃える大坂城で強敵と死闘を繰り広げる、クライマックスへと突入していく。知力と体術を振り絞った、忍者ならではのアクションが、大いに楽しめるのだ。

 ところで秋田では、昔話を“とっぴんぱらりのぷう”という言葉で、締めくくるという。その意味は、めでたしめでたしだが、お話を聞いてくれてありがとうという、感謝の意も込められているそうだ。これに準(なぞら)えて、物語を読了したなら“とっぴんぱらりのぷうたろう”と、呟こうではないか。意味は“こんなに面白い話を書いてくれてありがとう”である。

万城目学『とっぴんぱらりの風太郎』特設サイト

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