2013.02.18 書評

美貌ゆえ波乱の生涯を送る女を描く『好色一代女』現代版

文: 鈴木 則文

『傾国子女』 (島田雅彦 著)

しまだまさひこ/1961年東京都生まれ。83年『優しいサヨクのための嬉遊曲』でデビュー。『カオスの娘――シャーマン探偵ナルコ』で芸術選奨文部科学大臣賞受賞など受賞歴多数。『英雄はそこにいる』『悪貨』など著作多数。2010年より芥川賞選考委員を務める。 文藝春秋 1680円(税込)

「傾国の美女」――という言葉がある。当節の平等社会を象徴する題名の〈子女〉が、〈美女〉が放つ強烈なオーラに圧倒され、かすんでみえるのは〈子女〉が良家の子女、帰国子女等、単なる集団の俗称として使用されているせいかもしれない。

 しかし、この小説のヒロイン白草千春は、その類まれな美貌から画家の実父にため息をつかせ「美女は、命を断つ斧」と教えられて育った絶世の美女なのである。

 小説家志望の七海という娘が、千春の交通事故の現場に偶然遭遇した奇縁で執筆した千春の一代記『好色一代女トゥデイ』がこの小説であるが、その流転、その転落の種々相は西鶴の「好色一代女」よりはるかに劇的で華やかな色彩に満ちている。まさにトゥデイなのだ。

 愛する父から養女に売られた千春は、孤独な転校生となった中学時代、甲田由里という同級生と親友になる。由里は血の薄い病気で将来への望みを捨て、自分に不可能な人生を千春に託す。「あたしは千春の舌になる。千春はあたしの血になって」と言い、頭脳明晰の由里と盛春の美女千春との絶妙のコンビによる波乱の人生行路が始まる。

 成長し更に美貌に磨きがかかる女子高生の千春に群がる男達。ミュージシャンのジョー、暴力団員のヤノケン、養父の花岡、京都の政財界の黒幕檀新一、檀は後継ぎを生む女を探している。その条件にぴったしの千春は最終選考で選ばれ、京都に行き愛され幸一を出産する。大検で東京女子大に入学。華やかなキャンパスライフをおくる中で、大学生で小平総理大臣の息子に口説かれ付き合いだす。一方哲学を教える般若先生にも惚れられ、千春をめぐって二人は対立、そのスキャンダルで小平首相は辞任。

 千春を求めて群がる金の亡者や権力の権化達が次々と破滅していく姿は、傾国子女の流転絵巻を華麗に彩って舞台は銀座のクラブへ移る。証券マンから政治家に転身した次世代の首相候補といわれる織田信孝と恋に落ちるが、結婚を出世の一手段としか考えていない織田に手酷く裏切られる。

 復讐、破滅、転落していく政界の若きホープ織田。

 ここまで書くと白草千春は男なにするものぞのエキセントリックな美女を思わせるが、その恋愛に於いては極めて普通の平均的子女である。ジョーとの初恋も可憐だし、好きになった俳優志望のホストの優作に献身的に貢ぎソープ嬢にもなる。

 作戦参謀として協力した親友由里の死の床での千春の慟哭は胸に迫って心をうつ。敗戦日本の荒廃の中で欲望に忠実に生きる女達を活写した『退廃姉妹』の島田雅彦の真骨頂であろう。