『夜市』、『雷の季節の終わりに』など、幻想的な筆致の小説で多くのファンを獲得する恒川光太郎さん。これまでは現代を舞台にした作品が中心だったが、新作長編『金色機械』は江戸時代の物語。時は変われど、恒川ワールドは健在だ。
「以前から妖怪など、民話的なモチーフを好んで用いてきましたが、突き詰めていくと、江戸や明治の時代にたどり着く。それらの原話がまだ生きていた時代です。雪女やカワタロウといった言葉が自然に出てくる世界の話で、これまでの読者にも違和感なく受け止めてもらえると思っています」
遊郭〈しなの屋〉の大旦那・熊悟朗のもとを、謎の女・遥香が面談に訪れる場面から物語は始まる。熊悟朗は他人の嘘を見破れる能力を、遥香は手が触れた者を安楽死させる能力をそれぞれに持っていた。不思議な力を宿すもの同士の出会いは、まるでSF作品のような印象だ。
「僕は時代小説の熱心な読者ではないので、時代ものを書けるか不安があった。江戸を描くにしても、SF的な物語なら自分のフィールドで勝負できるだろうと思ったんです」
作中で最も不思議な存在が、タイトルにもなっている金色の機械。「金色様」という名前で登場し、月からやって来た神様として崇められている。
「全身金色でのっぺりとした、目が緑色の機械とだけ説明しています。今で言えばアンドロイドですが、江戸時代では宇宙や未来という概念がないので、『月からきた神様』と翻訳される。当時も黄金の仏像はあったので、まったく突飛な想像でもないと思うんですよ。実はスター・ウォーズの人型ロボットC-3POがモデルなんですが(笑)、好きに想像していただいて構いません」
実母を殺した犯人を遥香が追うというミステリー的展開や、初めてとなるバトルシーンを盛り込むなど、本人も「これまでにない作品」と自信を見せる。
「今までと違って、エンタメ性の高い描写を意識しました。戦闘シーンは描いていて楽しかった。実際に命のやりとりをした者同士にしかわからない世界があると知ることができました。
登場人物に自由意思で生きている人はいません。理不尽なことを飲み込みながら、みな誰かの役に立とうと必死に生きている。それは職業選択の自由がないという、時代的な制約を考慮してのことです。ポジティブでもあり、やるせなくもある話になっています」
つねかわこうたろう/1973年東京都生まれ。2005年「夜市」で第12回日本ホラー小説大賞を受賞。書き下ろしの「風の古道」を併録した『夜市』は第134回直木賞の候補となる。『秋の牢獄』『草祭』『金色の獣、彼方に向かう』など著書多数。
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