2013.05.02 書評

ローマは一日にして成らず、
されど滅亡は一日にして成る

文: 伊東 潤

『パナソニック・ショック』 (立石泰則 著)

たていしやすのり/1950年福岡県生まれ。雑誌編集者などを経て独立。93年『覇者の誤算』で講談社ノンフィクション賞受賞。『復讐する神話 松下幸之助の昭和史』『さよなら! 僕らのソニー』など著書多数。 文藝春秋 1365円(税込)

 大手家電メーカーの二〇一二年三月期の決算内容が発表され、私は衝撃を受けた。

 シャープ、ソニー、パナソニック三社の最終赤字を合計すると、実に一・六兆円に達するのだ。

 もはやこの数字は危険水域に達しており、三社そろって危機的状況にある。

 むろん長きにわたる円高が原因の一つなのは認めるが、三社共に経営陣の判断ミスが直接要因となったのは、否めない事実である。

 本書は、その中でも最も大きな赤字額(七千七百二十一億円)を出したパナソニックに焦点を絞り、その歴史を紐解くことから始め、衰退の真因を探り出そうという試みである。

 まず一章と二章で、創業者松下幸之助の人生と事績から、その経営理念を知ってもらう。続く三章から六章までで最高経営責任者たちの足跡に触れ、七章で再建の処方箋が奈辺にあるかを探るという構成である。

 こうした本にありがちな、現存者への遠慮や同情的言辞、また遠回しな言い方は一切なく、誰が会社を駄目にしたのかを、ずばりと指摘していく。

 こうした著作は、あまり厳しい書き方をしてしまうと、対象企業だけでなく他の企業からも取材拒否に遭うため、どうしてもやんわりとした書き方になってしまう。しかし著者は、パナソニックの再生を願うがゆえに、あえて一刀両断する。

 例えば「後継者に中村邦夫を選んだ森下洋一の罪は重いと言わざるを得ない」という一節を読めば、どのようなことが書かれているか、お分かりだと思う。

 読了後、私はパナソニックの凋落を武田家の滅亡に結び付けてしまった。

 長篠合戦において、信玄の遺産である宿老たちと対立し、撤退が遅れて退路をふさがれてしまった末、無謀な戦いを挑まざるを得なくなった勝頼と、プラズマディスプレイからの撤退時期を見誤った中村氏の失敗は、重なって見えてしまうのである。歴史から学ぶべきものは実に多い。