書評

超能力者ゆえの悲しみを描く、「魔女」シリーズ最新作!

文: 西上 心太

『魔女の封印』 (大沢在昌 著)

おおさわありまさ/1956年愛知県生まれ。79年『感傷の街角』で第1回小説推理新人賞を受賞し作家デビュー。94年『無間人形 新宿鮫IV』で第110回直木賞、2014年『海と月の迷路』で第48回吉川英治文学賞を受賞。その他著書、受賞歴多数。近著に『極悪専用』など。 文藝春秋 1850円+税

 大沢在昌は新宿鮫シリーズや佐久間公シリーズのように、リアルな警察小説やハードボイルド小説の書き手として有名だが、その一方で現実世界には存在しない特殊能力の持ち主を登場させたり、SF的な設定を好んで作品内に持ち込むことでも知られている。

 肉体に重いダメージを負った女性刑事の脳を、脳死状態になった犯罪組織のボスの情婦に移植するという『天使の牙』からはじまる天使シリーズは後者の好例であろう。

 そして本書に登場するヒロイン水原は前者を代表する存在である。

 水原は幼いころ実の祖母に地獄島と呼ばれる歓楽の島に売り飛ばされる。彼女はそこで性の奴隷として、何千人もの男たちの相手をさせられてきた。その過酷な経験により彼女の能力が開眼する。水原は男と会うだけで、その男の本質を見通すことが出来るのだ。地獄島を脱出した水原は、その能力を生かし、裏社会のコンサルタントとして成功する。だが再び忌わしい記憶が残る地獄島に赴き、かの地を壊滅させ、次いで国境を超えて結成されようとした民族マフィアの芽も摘み取った……、というのがシリーズ三作目の本書に至るまでの流れである。

 水原は国家安全保障局に出向した元公安刑事の湯浅から依頼を受ける。堂上保と名乗る男と会い、彼の人となりを見極めて欲しいというのだ。堂上は六十二歳になる骨董商だが、本名、実年齢ともに不詳という人物らしい。様々な手づるから水原は堂上との面会を果たすが、人の内面を感じ取る自分の武器が通じないことを知る。しかも堂上は一億人に一人という、ある特殊な力の持ち主であった。やがてこの力を有する者たちをめぐり、水原は深い因縁がある暴力団の星稜会や、日中の諜報組織がからんだ暗闘に巻き込まれていく。

 堂上らの能力については詳述しないが、彼らの存在からはクラーク『幼年期の終わり』やオールディス『子供の消えた惑星』というSFの名作を、また超能力者ゆえの悲しみという通奏低音のように流れる本書のテーマからは宮部みゆき『クロスファイア』などの先行作品を思い起こす。

 特異な存在を物語の中に投げ込むことで、従来とは違う反応を起こさせる作者お得意の手法が、予測のつかない展開を生みだすことにつながっている。残酷で不公平な世の中で、辛くも保たれている秩序を守るため、リアリストである水原が下す決断は凄絶だ。頂点に立つ者に対し、能力を全開にして戦う水原の姿は以前に増して魅力的。読み逃せない作品である。