2018.08.29 インタビューほか

<姫野カオルコインタビュー> 彼女はなぜ、非難されたのか?

「オール讀物」編集部

『彼女は頭が悪いから』

『彼女は頭が悪いから』(姫野カオルコ 著)

 二年前に起こった、東大生五人による強制わいせつ事件。この事件に想を得て書かれたのが本作だ。

 ごくふつうの家庭で育ち、女子大に進学した美咲は、東大生のつばさと偶然出会い、二人は恋をしたはずだった。だが半年後、つばさは仲間と共に美咲を酔い潰し、侮辱的なわいせつ行為に及ぶ。「尻軽女だから何してもいいよ」と言ったつばさ。美咲がつばさに会う前に化粧をしたのは、東大生と聞いて「すごい」と言ったのは、つばさの言うような“下心”だったのか。

「報道を聞いて、スーパーフリー事件をはじめ、これまでに起こった集団レイプ事件とは何か違う感じがしました。被害者がその場を逃げ出して、公衆電話からすぐ110番しているところに、のっぴきならないものを感じたんです」

 事件について調べ、裁判傍聴にも通ったという姫野さん。傍聴の待合室で、違和感を抱く出来事があった。

「突然『ぼく東大なんですけど、なんで傍聴に来たんですか?』『ぼく東大なんですけど、ここ静かですね』と何度も話しかけられたので、あなたのことを何とお呼びすればいいですかと訊ねたら、『ぼく東大なんで』と去っていきました。これまで東大生だと言えばそれで通ってきたんだろうなと、漠然と、いつかこの事件を小説にするとしたら、彼のように『ぼく東大』で生きてきた人のことを書こうと思いました」

 とはいえ、すぐに小説の題材にするつもりはなかったというが、「オール讀物」で一九七〇年代の田舎の高校生を連作で描いたことが、本作に繋がった。

「テストのことで悩んだり、気になる異性とすれ違うだけでドキドキしたりするようなハイティーンの過剰な自意識を書いていたら、近視眼的だけどすごく一生懸命だった頃の気持ちに戻りました。そうしたら、この事件のことを思い出したんです」

 淡い恋心ゆえの行動。無自覚にくすぐられる高学歴のプライド。各々の家庭環境に格差意識、打算や劣等感――。読み進めるうち、美咲の悲しさや悔しさだけではなく、読み手のうちに潜むさまざまな感情も抉り出されていく。

「加害者たちは法的な裁きを受けているし、事件そのものについて私が何か言うべきではないと思っています。これは完全なフィクションです。

 この小説を書いている間、ずっと嫌な気持ちでした。自分の中の嫌なものを鏡に映されるような気がしたんです。だから、これは“ミラー小説”なんです。鏡で自分のおできを見たら嫌な気持ちになるのに、すごく気になって見てしまう感じと同じです」


ひめのかおるこ 一九五八年滋賀県生れ。九〇年『ひと呼んでミツコ』で単行本デビュー。二〇一四年『昭和の犬』で直木賞を受賞。『受難』『ツ、イ、ラ、ク』『謎の毒親』等著書多数。

こちらのインタビューが掲載されているオール讀物 9月号

2018年9月号 / 8月22日発売 / 特別定価1000円(本体926円)
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