書評

生きるという路上において、たった一人でぽつんと立っている迷い子たちの記

文: 中島らも (作家)

『天人唐草 自選作品集』(山岸凉子 著)

『天人唐草 自選作品集』(山岸凉子 著)

「狐女」の主人公理は九歳。早熟で悪魔のような奸智を秘めた子どもだ。しかし、その外殻は理の「武装」の結果に過ぎない。その外殻をくるりとむけば、裸の、柔らかい九歳の子どもの姿があるはずだ。母親を知らず、三界に家なき身となった彼には武装する必然があったのだ。

 父親の血のつてをたずねてこの子は地方の素封家の家に転がり込む。土蔵、稲荷、冷たい廊下、冷たい大人たち。煤けた借景の中で、彼の「母親探し」が始まる。彼もまた迷い子なのだ。きりっとして泣きわめかないから誰も気づいてくれないだけだ。泣く前にこの子は、悪意と知恵とを武器に世界と対決しようとする。そして、ついに彼は母親を探し当てる。そして......。そして今度こそ本物の迷い子になるのだ。悲痛で、美しい物語。

「籠の中の鳥」。ここにも迷い子がいる。彼の名は融だ。彼は「鳥人一族」の末裔だ。盲目の祖母とたった二人、人里離れた山家に暮らしている。両親の顔を見たことはない。お祖母ちゃんは「飛べる」が融は「飛ぶ」ことができない。鳥人一族は飛ぶ能力なくしては生きてはいけないのに、である。そして頼みの綱のお祖母ちゃんもある日亡くなってしまう。融は飛ぶ能力もなく生きる術も知らず、無能な「子ども」のまま、裸の世界へぽんと放り込まれてしまうのだ。悪夢のような一瞬だ。凍りついた時間はやがて溶け始め、ゆっくりと流れ出す。しかし、時が流れるのは、この悪夢を反復し、展開させていくためでしかない。融はこの流れに添って、あいかわらず無力な子どものまま呆然として歩んでいかねばならない。

(ただこの作品は本編中唯一のハッピーエンドになっている。)

天人唐草山岸凉子

定価:本体780円+税発売日:2018年09月04日


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