書評

人間関係にある抑圧とエロスというタブーを怖れず描いた天才漫画家

文: 桐野夏生 (作家)

『月読 自選作品集』(山岸凉子 著)

『月読 自選作品集』(山岸凉子 著)

 山岸凉子が、「りぼんコミック」で、「レフトアンドライト」という作品でデビューしたのが、一九六九年。以来、第一線で描き続けて、五十年の節目を迎えた。

『アラベスク』『日出処の天子』『舞姫 テレプシコーラ』などの長編はよく知られているが、その合間を縫うようにして描かれた短編の驚くべき数と、その質の高さを知っている者はどのくらいいるだろうか。

 特に、山岸凉子が三十代に入ってから描かれた短編群は、鳥肌が立つほどの傑作揃いで、その創作意欲に畏れを感じるほどだ。分岐点は、七八年「ハーピー」や、七九年「天人唐草」あたりからだろうか。ご本人に伺ってみたいところである。

 山岸凉子の短編に、たびたび表れるテーマは、「抑圧」と「エロス」である。エロスの抑圧でもあるし、抑圧によって生じるエロスでもある。

 それも、原初的な人間関係、つまり親子や、兄弟・姉妹間における抑圧が描かれることが多い。しかも、巷間あるような、抑圧された者がそれを乗り越えて、自身を解放してゆくようなシンプルな物語には決してならない。

月読山岸凉子

定価:本体780円+税発売日:2019年04月10日


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